「……お、母さん……?」
 白いニットの上着に薄紅色のロングスカート。
 セミロングの髪はうなじでくくり、控えめなシュシュをつけている。

 私室に飾った写真と全く同じ姿をした母が、歩いてくる。
 緩やかな夜風に吹かれながら、まっすぐに、美緒を見つめて。

 目に映る光景が信じられず、状況も忘れて立ち尽くしていると、銀太が足元に来て言った。

「ぼくが学校に行って呼んできたの。幽子さんが本当に美緒のお母さんだとしたら、大切な娘がピンチだって知れば絶対駆け付けたいだろうって思って。本当に幽子さんは美緒のお母さんだったよ。美緒のことちゃんと思い出してくれたよ」
 母は目の前で立ち止まった。

 風が吹いて、桜の花びらが二人の間を横切る。
 強い香の匂いに混じって桜の香りがした。

「…………お母さん。本当に、お母さん……なんだよね?」
 母は。

「――――」
 何か言いかけて口を開き、それからまた閉じて。
 いきなりがばっと両手で顔を覆い、空を仰いだ。

 悶絶するように身体が震えている。

(あれ、なんかデジャヴ)
 正気に戻った朝陽も全く同じ反応をした。

「あああああああああああぁ……」
(震えながら呻き出した!?)
「お、お母さん? どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよ!!」
 母は両手を放し、喚き始めた。