(どうしよう)
 芳谷美緒《よしたにみお》は途方に暮れていた。

 今日は地元の神社の夏祭り。

 花のかんざしを挿し、華やかな赤い浴衣を着せてもらった美緒は上機嫌で屋台を見て回った。
 そうしてはしゃいでいるうちに祖母とはぐれ、迷子になってしまった。

 通りは多くの者たちで賑わっている。
 祭囃子が流れる中、行き交う彼らは、人ではなかった。

 二足歩行する狸に、べろんと舌を出した一本足の傘のお化け、頭に獣の耳を生やした子どもたち。

 あやかし。あるいは妖怪とも呼ばれるもの。
 美緒は祖母と同じく、生まれつき彼らを見る力があった。

 祖母曰く、村の北東、鬼門の方角にはあやかしたちの隠れ里があって、村にはそこから流れてきたあやかしが時折ふらりと現れるのだという。

 多分、ここはあやかしたちの隠れ里だ。

 空気の匂いも湿度も違う。
 ここに夏の熱気はなく、穏やかな春のように暖かい。

 通りの左右に並ぶ屋台は古めかしく素朴な造りで、頭上に吊り下げられた丸い提灯の中の火は自由気ままに踊っている。
 金魚すくいの屋台では金魚が水槽の中でぺちゃくちゃ喋り、屋台の後ろで満開の桜が咲いていた。

 青い鬼火が目の前を通り過ぎて、美緒は後ずさった。