「ツッキ―」
 体育館を後にしようと階段を降りている途中、漣の声が由真を引き止めた。振り返ると、漣がにこやかにこちらを見ている。
「はい」
 突然の呼びかけに、由真は何を言われるのだろうと少し緊張する。
「ラーメン好き?」
「はい、好きです」
「これから俺たちラーメン食べに行く予定なんだけど、一緒にどう? ここから歩いて十分ぐらいの所にあるんやけど」
 突然の誘いに由真は少し戸惑った。晴陽たちと一緒に食事だなんて、予想もしていなかった。だが、心の奥底では、彼らとの距離が少しずつ縮まっているような気がして、嬉しさが込み上げる。
「ちょっと電話で親に確認をしてもいいですか」
「おぉ」
 少し離れた場所に移動し、由真は携帯を取り出して母に電話をかける。夜の涼しい風が頬に心地よく吹き、心を落ち着けようとする。
「お母さん。今日、ラーメン食べてきてもいい?」
 電話越しに少し驚いた母親の声が返ってきた。
「一人で食べに行くの? それとも、写真部の泉太郎くん?」
「一人じゃなくって、泉太郎でもなくて、ちょっと友達に誘われて」
「えっ⁉」
 隕石が落ちたかのように母の三恵子は驚きの声を大にする。
「大袈裟だよ。お母さん」
 由真は少し笑いながら答える。母親の反応が、なんだか微笑ましく感じた。
「ごめん、ごめん。くれぐれも遅くならないようにね」
「うん」
「楽しんでおいでね」
「うん。ありがと」
 電話を切り、少しだけ心が軽くなった気がした。周りの暗闇に包まれた校舎が、少しだけ温かく感じる。
「待たせてしまいすみません」
「じゃあ、俺たち着替えてくるから東校門の所で待ってて」
「はい」
 由真は一人、静かな校庭を横切りながら東校門に向かう。夜風が木々を揺らし、学校のライトがぼんやりと周囲を照らしている。ふと、今日一日の出来事が思い返される。昼食の時、晴陽たちと過ごした時間、そして今、また一緒に食事をするという不思議な展開。心のどこかで、少しずつ新しい友達と繋がっていく感覚が心地よい。
「月くん。お待たせ」
 振り返ると、制服姿の晴陽、漣、功祐、しずくが現れる。そして、3組の津野祐大、坂下秀汰が走ってくる。
「この二人もいい?」
 漣は由真に許可を得る。
「はい、もちろんです」
「よく、二年のメンツでラーメン食べに行くんだよ」
 晴陽が軽い調子で話し始めた。
「ラーメン安いし、大将が星凌のOBらしくよくおまけしてくれるからよく行くんだ」
「楽しみです」
 由真は微笑みながら応じた。夜の静かな街並みを歩く中、少しずつ晴陽たちとの距離が縮まっていくように感じていた。