「ツッキ―」
体育館を後にしようと階段を降りている途中、漣の声が由真を引き止めた。振り返ると、漣がニコニコしながら、こちらを見ている。
「はい」
突然の呼びかけに、由真は何を言われるのだろうと少し緊張する。
「ラーメン好き?」
「はい、好きです」
「これから俺たちラーメン食べに行く予定なんだけど、一緒にどう? ここから歩いて十分ぐらいの所にあるんやけど」
突然の誘いに由真は目を大きくする。橘くんたちと放課後ごはん⁉ 嬉しいけど、こんな僕が行って、空気悪くしたりしないかな…でも、橘くんも、榊原くん、松井くん、そして、牧田さんも、まだ話すようになってから、時間そんな経ってないから、一概にどういう人って、まだ良くも知らない自分が言うのはどうかしているけど、悪い人ではないと思う、昔、関わってきた人たちに比べると…。写真を撮るという好きなこと、生き甲斐にしていることをバカにしなかった、僕が切り抜いた瞬間を、釘付けになっ褒めてくれた。だから、この人たちと仲良くなりたいと心の底から思ってしまった。彼らに出会って、間もないけど、僕の世界に温かさと彩りが加わった、そんな気がする。カメラを持っていなきゃ、不安と孤独で心がどうにかなりそうだったけれど、カメラを持ってなくても、そんな感情に苛まれずに済んでいるの、久しぶりな気がする。いつも、カメラが僕の心に積もる不安や孤独を解かしてくれていたから…
「ちょっと電話で親に確認をしてもいいですか」
少し離れた場所に移動し、由真は携帯を取り出して母に電話をかける。夜の涼しい風が頬にあたり、気持ちいい。
「お母さん。今日、ラーメン食べてきてもいい?」
電話越しに少し驚いた母親の声が返ってきた。
「一人で食べに行くの? それとも、写真部の泉太郎くん?」
「一人じゃなくって、泉太郎でもなくて、ちょっと友達に誘われて」
「えっ⁉」
隕石が落ちたかのように母の三恵子は驚きの声を大にする。
「大袈裟だよ。お母さん」
由真は少し笑いながら答える。母親の反応が、なんだか微笑ましく感じた。
「ごめん、ごめん。くれぐれも遅くならないようにね」
「うん」
「楽しんでおいでね」
「うん。ありがと」
電話を切った後、少しだけ心が軽くなった気がした。
「待たせてしまいすみません。ラーメン一緒に食べに行きたいです」
「じゃあ、俺たち着替えてくるから東校門の所で待ってて」
「はい」
由真は一人、静かな校庭を横切りながら東校門に向かう。夜風が木々を揺らし、学校のライトがぼんやりと周囲を照らしている。ふと、今日一日の出来事が思い返される。昼食の時、晴陽たちと過ごした時間、そして今、また一緒に食事をするという不思議な展開。 泉太郎くんや部活の人たちと話す以外に、学校でこんなに会話するの久しぶりだから、嬉しい反面、まだ緊張してしまう。彼らと友達になりたいのに、友達ってどうやってなれば、いいんだろう。
「月くん。お待たせ」
振り返ると、制服姿の晴陽、漣、功祐、しずくが現れる。そして、3組のバスケ部のメンバー津野祐大、坂下秀汰が走ってくる。
「この二人もいい?」
漣は由真に許可を取る。
「はい、もちろんです」
「いいって。祐大、秀太」
「クラスは違うけど、よろしくな。ツッキー」「最近現れた噂のカメラマン、とても興味あったんだ」
祐大と秀太は、由真の前に拳を突き出す。
この場合、どうすれば…
「グーして」と晴陽は由真の手を掴み、祐大と秀太の拳に順番に当てていく。
「よろしく、お願いします」
「おぉ」
「じゃあ、行こうか」
「おぉ」
しずくの掛け声で、学校をあとにする。車の通りが多く、三列に別れて歩く。前列に、祐大と秀太。真ん中にしずく、功祐、漣。後列に、由真と晴陽。
「月くん。よくできました」と耳元で囁かれ、顔が紅潮してしまう。暗くて良かった。じゃなきゃ……。
「よく、二年のメンツでラーメン食べに行くんだよ」
晴陽が由真に説明する。
「ラーメン安いし、大将が星凌のOBらしくよくおまけしてくれるからよく行くんだ」
前にいるしずくが振り返り、にこやかに言う。
「しずく、急に後ろ向いたら危ない」
功祐がしずくの姿勢を前に戻す。
「いいじゃん。囲まれているから、もし何か会った時は男どもが守ってくれるでしょ」
「男ども…」
笑いの沸点が低い漣は、しずくの発言にお腹を抱え込んでしまう。
「漣、相変わらず、笑いのツボが」
そんなやり取りをみて由真は思わず笑ってしまう。星稜のバスケ部は強豪として知られていて、ピリピリしているイメージがあったけど、こんなにフランクで、部活終わりラーメン食べに行くなんて、何だかほっこりしてしまう。こんな和気藹々としているメンバーの中に僕が混じるのは何だか違和感しかない。このままいてもいいのだろうかと不安が心の中で揺れる。
思わず、隣にいる橘くんに視線を向けると、目が合ってしまう。あぁ、ごめんなさいと心の中で頭を下げる。
空を見上げれば月が出ているのに、横には太陽のように眩い君がいる。何だか不思議な気持ち。こんな瞬間、カメラでは撮れない。心でシャッターを切り、この瞳で瞬間を心に納めることにした。頭だといつかは忘れてしまう。心は、ずっと覚えている。あの瞬間、心がどう揺らいだのか、頭より鮮明に刻んでくれるものだと、僕は思っている。だから、心が思うままに、シャッターを押す。カメラを持っている時、持っていない時でも。
夜の静かな街並みを歩く中、由真は、少しずつだけど晴陽たちとの距離が縮まっていくように感じていた。
体育館を後にしようと階段を降りている途中、漣の声が由真を引き止めた。振り返ると、漣がニコニコしながら、こちらを見ている。
「はい」
突然の呼びかけに、由真は何を言われるのだろうと少し緊張する。
「ラーメン好き?」
「はい、好きです」
「これから俺たちラーメン食べに行く予定なんだけど、一緒にどう? ここから歩いて十分ぐらいの所にあるんやけど」
突然の誘いに由真は目を大きくする。橘くんたちと放課後ごはん⁉ 嬉しいけど、こんな僕が行って、空気悪くしたりしないかな…でも、橘くんも、榊原くん、松井くん、そして、牧田さんも、まだ話すようになってから、時間そんな経ってないから、一概にどういう人って、まだ良くも知らない自分が言うのはどうかしているけど、悪い人ではないと思う、昔、関わってきた人たちに比べると…。写真を撮るという好きなこと、生き甲斐にしていることをバカにしなかった、僕が切り抜いた瞬間を、釘付けになっ褒めてくれた。だから、この人たちと仲良くなりたいと心の底から思ってしまった。彼らに出会って、間もないけど、僕の世界に温かさと彩りが加わった、そんな気がする。カメラを持っていなきゃ、不安と孤独で心がどうにかなりそうだったけれど、カメラを持ってなくても、そんな感情に苛まれずに済んでいるの、久しぶりな気がする。いつも、カメラが僕の心に積もる不安や孤独を解かしてくれていたから…
「ちょっと電話で親に確認をしてもいいですか」
少し離れた場所に移動し、由真は携帯を取り出して母に電話をかける。夜の涼しい風が頬にあたり、気持ちいい。
「お母さん。今日、ラーメン食べてきてもいい?」
電話越しに少し驚いた母親の声が返ってきた。
「一人で食べに行くの? それとも、写真部の泉太郎くん?」
「一人じゃなくって、泉太郎でもなくて、ちょっと友達に誘われて」
「えっ⁉」
隕石が落ちたかのように母の三恵子は驚きの声を大にする。
「大袈裟だよ。お母さん」
由真は少し笑いながら答える。母親の反応が、なんだか微笑ましく感じた。
「ごめん、ごめん。くれぐれも遅くならないようにね」
「うん」
「楽しんでおいでね」
「うん。ありがと」
電話を切った後、少しだけ心が軽くなった気がした。
「待たせてしまいすみません。ラーメン一緒に食べに行きたいです」
「じゃあ、俺たち着替えてくるから東校門の所で待ってて」
「はい」
由真は一人、静かな校庭を横切りながら東校門に向かう。夜風が木々を揺らし、学校のライトがぼんやりと周囲を照らしている。ふと、今日一日の出来事が思い返される。昼食の時、晴陽たちと過ごした時間、そして今、また一緒に食事をするという不思議な展開。 泉太郎くんや部活の人たちと話す以外に、学校でこんなに会話するの久しぶりだから、嬉しい反面、まだ緊張してしまう。彼らと友達になりたいのに、友達ってどうやってなれば、いいんだろう。
「月くん。お待たせ」
振り返ると、制服姿の晴陽、漣、功祐、しずくが現れる。そして、3組のバスケ部のメンバー津野祐大、坂下秀汰が走ってくる。
「この二人もいい?」
漣は由真に許可を取る。
「はい、もちろんです」
「いいって。祐大、秀太」
「クラスは違うけど、よろしくな。ツッキー」「最近現れた噂のカメラマン、とても興味あったんだ」
祐大と秀太は、由真の前に拳を突き出す。
この場合、どうすれば…
「グーして」と晴陽は由真の手を掴み、祐大と秀太の拳に順番に当てていく。
「よろしく、お願いします」
「おぉ」
「じゃあ、行こうか」
「おぉ」
しずくの掛け声で、学校をあとにする。車の通りが多く、三列に別れて歩く。前列に、祐大と秀太。真ん中にしずく、功祐、漣。後列に、由真と晴陽。
「月くん。よくできました」と耳元で囁かれ、顔が紅潮してしまう。暗くて良かった。じゃなきゃ……。
「よく、二年のメンツでラーメン食べに行くんだよ」
晴陽が由真に説明する。
「ラーメン安いし、大将が星凌のOBらしくよくおまけしてくれるからよく行くんだ」
前にいるしずくが振り返り、にこやかに言う。
「しずく、急に後ろ向いたら危ない」
功祐がしずくの姿勢を前に戻す。
「いいじゃん。囲まれているから、もし何か会った時は男どもが守ってくれるでしょ」
「男ども…」
笑いの沸点が低い漣は、しずくの発言にお腹を抱え込んでしまう。
「漣、相変わらず、笑いのツボが」
そんなやり取りをみて由真は思わず笑ってしまう。星稜のバスケ部は強豪として知られていて、ピリピリしているイメージがあったけど、こんなにフランクで、部活終わりラーメン食べに行くなんて、何だかほっこりしてしまう。こんな和気藹々としているメンバーの中に僕が混じるのは何だか違和感しかない。このままいてもいいのだろうかと不安が心の中で揺れる。
思わず、隣にいる橘くんに視線を向けると、目が合ってしまう。あぁ、ごめんなさいと心の中で頭を下げる。
空を見上げれば月が出ているのに、横には太陽のように眩い君がいる。何だか不思議な気持ち。こんな瞬間、カメラでは撮れない。心でシャッターを切り、この瞳で瞬間を心に納めることにした。頭だといつかは忘れてしまう。心は、ずっと覚えている。あの瞬間、心がどう揺らいだのか、頭より鮮明に刻んでくれるものだと、僕は思っている。だから、心が思うままに、シャッターを押す。カメラを持っている時、持っていない時でも。
夜の静かな街並みを歩く中、由真は、少しずつだけど晴陽たちとの距離が縮まっていくように感じていた。