卒業式の日、朝から穏やかな陽光が差し込む中、空は澄み切って一面の青で覆われていた。冬が残した冷たい風も、春の暖かさに溶け込んで柔らかく感じられ、遠くの桜の木々がほんのりと色づき始めている。校門から見える木々にはまだ新緑の気配がほとんどないものの、枝先には小さな蕾がちらほらと顔をのぞかせ、風に揺られて春の到来を予感させていた。卒業式が終わり、ある人からの激励を胸にして、由真はカメラを持って、思い出の場所へと足を急がせた。
いた。
制服姿で、ボールをドリブルさせている君が視界に入る。僕は、カメラを構え、君がジャンプをして、ボールを話した瞬間、シャッターを切る。カメラを降ろすと、シュートが決まった音が耳に届く。やっぱり、すごいなとボールが通ったバスケットゴールを眺めていると、手が掴まれた感触がし、視線を降ろす。すると、いつの間にか晴陽が立っていた。
そして、あの日みたいに無言で体育館の中に引っ張られていく。
「月くん」
晴陽は首を振り、目を一瞬閉じ、覚悟の火を目に灯して、口を切る。
「由真」
「はい」
「今まで避けてごめん。傷つけてごめん。自分勝手なのは分かっているけど、伝えさせて…好きなんだ。初めて出会ったあの日から。七才のあの時から。もし、君に出会わなかったら、俺はバスケを辞めていた。君に出会えたから、今もこうしてバスケが続けられている。壁に何度もぶつかってきた。でも、その度に、初めてシュートが決まったあの日のこと、レンズ越しに向けられた視線を思い出していた。すると、不思議と力が湧いて来て、壁を乗り越えることが出来た。ずっと探していた人にまさか高校で再会出来るとは思いもしなかったから、あの写真を見つけた時は、驚いた。正直言うと、髪が長くて、可愛かったし、名前は覚えてなくてもちゃん付けで呼ばれていたことだけは頭に残っていたから、勘違いしてしまっていた。ごめん。でも、嬉しかった。ずっと探していた子が、由真だと知って。あの日、この体育館でレンズ越しに向けられた視線が懐かしいと思ったのも、初めてじゃなかったからだと納得した」
大きく息を吸う。一歩踏み出し、由真の眼鏡を外し、顔に手を当て、おでこをくっつけ、由真の瞳の奥底まで見つめる。そんな晴陽に、胸がさらに高鳴ってしまう。
「俺にだけ、レンズを向けて欲しい。カメラのレンズを他の人に向けるのは許す…けど、このレンズだけは俺にだけ向けて欲しい」
由真は、うんと頬を緩めて、口を開く。
「僕も、好き。晴陽のことが」
晴陽は我慢できず由真の左手首を右手で掴み、抱き寄せる。そして、手を由真の腰に回す。
「待って。カメラ」
由真は首にかけていたカメラを右肩にかける。そして、準備が整うと再び見つめ合い、晴陽は左手だけを由真の腰に回す。右手は、顎をくいっさせるように使い、唇をそっと重ねる。
由真の心臓のドキドキがさらに加速する。これがキス…。生まれて最初にするキスにリボン解けていくかのようにからだの力が抜けていく。
床へと崩れ落ちそうになるのを、咄嗟に晴陽が支える。
「大丈夫?」
「う…ん」
頬を赤くした由真の顔を見て、「やっぱり、可愛いな」と晴陽は、愛くるしそうに耳元で囁く。由真は、ドキッとさらに胸が熱くなってしまう。
「続きは、また今度」
紅潮した頬の左にキスして、下から、恍惚とした表情で、由真の目に入り込みそうな勢いで見つめる。さらに、由真のドキドキが加速していく。
「そんな顔しないの」
心読まれている…⁉
一歩踏み出し、由真の顔に手を当て、おでこをくっつけ、由真の瞳を見つめる。そんな晴陽に、胸がさらに高鳴ってしまう。
僕も、あの日、必死に汗を流しながら、シュート練習をしている君の姿に心を奪われていた。元々は、草花を撮ろうとしていた。しかし、気づけば、カメラを同い年ぐらいのその男の子に向けていた。シャッターを切った瞬間、ゴールに目を移すと、シュートが決まり、心の中で「かっこいい」と思った。その当時、撮った写真を確認する方法を知らなかったため、どんな写真が撮れているのか気になりつつも、そう綺麗には撮れていないだろうと思い、迎えに来たおばあちゃんと共に、帰路についた。でも、心の中のシャッターには、綺麗にその男の子がシュートする場面が映っていたから満足だった。その子に会うことは、それ以来なかったけれど、世界のどこかでバスケを続けてくれていたら嬉しいな、そして、またその男の子のシュートが見れたらなぁと心の片隅で思っていたら、まさか高校で叶うとは。
最初は気にしていなかった。体育館で君の姿に心を奪われてシャッターを切った時も。でも、僕のことを孤独から救ってくれたそのバスケ部のエースの友達の初恋を聞いてから、記憶の隅で眠っていたあの男の子のことを思い出した。まさか、目の前にいる友達があの男の子かもしれないと思ったが、女の子って言ってたし、全国にバスケットゴールがある公園なんて沢山あるし、公園の名前も場所も、季節も聞いていなかったから違うと思った。でも、違わなかった。あの日の男の子は、晴陽だった。
君に出会わなかったら、今、この場所に立って、幸せを噛みしめることなど出来なかった。
「由真?」
晴陽が、首をちょこんと傾げる。
気づけば、心の中で今までの想いを整理していた。目の前に本人がいるというのに、簡潔にして伝えることができない。情報の取捨選択が出来ない。
「僕も晴陽に伝えたいこととか、今までどういう気持ちだったのか伝えたいことこんなにある」
手を使って、肩がポキッとなるほど大きく円を描く。
「俺も、今日はお互い今まで貯めてきた気持ちを全て吐き出すまで返さないからな」
晴陽は、いたずらな笑みを浮かべる。
「望むところだ」
由真も火花、いや、線香花火のような見ていて心が穏やかになるようなパチパチとした表情を浮かべる。
「はい、はい」
晴陽は、由真の右手を絡ませ、右手でバスケットボールをテンポよく上にあげながら、体育館を後にした。
僕は、あの日、君にレンズ越しに恋をした。そして、この瞳が閉じるまで、君に恋をし続ける。
いた。
制服姿で、ボールをドリブルさせている君が視界に入る。僕は、カメラを構え、君がジャンプをして、ボールを話した瞬間、シャッターを切る。カメラを降ろすと、シュートが決まった音が耳に届く。やっぱり、すごいなとボールが通ったバスケットゴールを眺めていると、手が掴まれた感触がし、視線を降ろす。すると、いつの間にか晴陽が立っていた。
そして、あの日みたいに無言で体育館の中に引っ張られていく。
「月くん」
晴陽は首を振り、目を一瞬閉じ、覚悟の火を目に灯して、口を切る。
「由真」
「はい」
「今まで避けてごめん。傷つけてごめん。自分勝手なのは分かっているけど、伝えさせて…好きなんだ。初めて出会ったあの日から。七才のあの時から。もし、君に出会わなかったら、俺はバスケを辞めていた。君に出会えたから、今もこうしてバスケが続けられている。壁に何度もぶつかってきた。でも、その度に、初めてシュートが決まったあの日のこと、レンズ越しに向けられた視線を思い出していた。すると、不思議と力が湧いて来て、壁を乗り越えることが出来た。ずっと探していた人にまさか高校で再会出来るとは思いもしなかったから、あの写真を見つけた時は、驚いた。正直言うと、髪が長くて、可愛かったし、名前は覚えてなくてもちゃん付けで呼ばれていたことだけは頭に残っていたから、勘違いしてしまっていた。ごめん。でも、嬉しかった。ずっと探していた子が、由真だと知って。あの日、この体育館でレンズ越しに向けられた視線が懐かしいと思ったのも、初めてじゃなかったからだと納得した」
大きく息を吸う。一歩踏み出し、由真の眼鏡を外し、顔に手を当て、おでこをくっつけ、由真の瞳の奥底まで見つめる。そんな晴陽に、胸がさらに高鳴ってしまう。
「俺にだけ、レンズを向けて欲しい。カメラのレンズを他の人に向けるのは許す…けど、このレンズだけは俺にだけ向けて欲しい」
由真は、うんと頬を緩めて、口を開く。
「僕も、好き。晴陽のことが」
晴陽は我慢できず由真の左手首を右手で掴み、抱き寄せる。そして、手を由真の腰に回す。
「待って。カメラ」
由真は首にかけていたカメラを右肩にかける。そして、準備が整うと再び見つめ合い、晴陽は左手だけを由真の腰に回す。右手は、顎をくいっさせるように使い、唇をそっと重ねる。
由真の心臓のドキドキがさらに加速する。これがキス…。生まれて最初にするキスにリボン解けていくかのようにからだの力が抜けていく。
床へと崩れ落ちそうになるのを、咄嗟に晴陽が支える。
「大丈夫?」
「う…ん」
頬を赤くした由真の顔を見て、「やっぱり、可愛いな」と晴陽は、愛くるしそうに耳元で囁く。由真は、ドキッとさらに胸が熱くなってしまう。
「続きは、また今度」
紅潮した頬の左にキスして、下から、恍惚とした表情で、由真の目に入り込みそうな勢いで見つめる。さらに、由真のドキドキが加速していく。
「そんな顔しないの」
心読まれている…⁉
一歩踏み出し、由真の顔に手を当て、おでこをくっつけ、由真の瞳を見つめる。そんな晴陽に、胸がさらに高鳴ってしまう。
僕も、あの日、必死に汗を流しながら、シュート練習をしている君の姿に心を奪われていた。元々は、草花を撮ろうとしていた。しかし、気づけば、カメラを同い年ぐらいのその男の子に向けていた。シャッターを切った瞬間、ゴールに目を移すと、シュートが決まり、心の中で「かっこいい」と思った。その当時、撮った写真を確認する方法を知らなかったため、どんな写真が撮れているのか気になりつつも、そう綺麗には撮れていないだろうと思い、迎えに来たおばあちゃんと共に、帰路についた。でも、心の中のシャッターには、綺麗にその男の子がシュートする場面が映っていたから満足だった。その子に会うことは、それ以来なかったけれど、世界のどこかでバスケを続けてくれていたら嬉しいな、そして、またその男の子のシュートが見れたらなぁと心の片隅で思っていたら、まさか高校で叶うとは。
最初は気にしていなかった。体育館で君の姿に心を奪われてシャッターを切った時も。でも、僕のことを孤独から救ってくれたそのバスケ部のエースの友達の初恋を聞いてから、記憶の隅で眠っていたあの男の子のことを思い出した。まさか、目の前にいる友達があの男の子かもしれないと思ったが、女の子って言ってたし、全国にバスケットゴールがある公園なんて沢山あるし、公園の名前も場所も、季節も聞いていなかったから違うと思った。でも、違わなかった。あの日の男の子は、晴陽だった。
君に出会わなかったら、今、この場所に立って、幸せを噛みしめることなど出来なかった。
「由真?」
晴陽が、首をちょこんと傾げる。
気づけば、心の中で今までの想いを整理していた。目の前に本人がいるというのに、簡潔にして伝えることができない。情報の取捨選択が出来ない。
「僕も晴陽に伝えたいこととか、今までどういう気持ちだったのか伝えたいことこんなにある」
手を使って、肩がポキッとなるほど大きく円を描く。
「俺も、今日はお互い今まで貯めてきた気持ちを全て吐き出すまで返さないからな」
晴陽は、いたずらな笑みを浮かべる。
「望むところだ」
由真も火花、いや、線香花火のような見ていて心が穏やかになるようなパチパチとした表情を浮かべる。
「はい、はい」
晴陽は、由真の右手を絡ませ、右手でバスケットボールをテンポよく上にあげながら、体育館を後にした。
僕は、あの日、君にレンズ越しに恋をした。そして、この瞳が閉じるまで、君に恋をし続ける。