いつの間にか切られた電話に少し、驚きを見せるが、それ以上に、由真の「晴陽」呼ぶに、胸の鼓動が高まっていた。
あの日以来、月くんが目覚めるまで、手を握っていたが、いつの間にか寝てしまい、先に目覚めた月くんが、俺に向かって「晴陽」と呼んでくれた以来。あの時、嬉しさのあま
り胸が熱くなってしまった。でも、「橘くん」呼びにすぐ戻る。その瞬間、膨らんだ風船が、一瞬にして空気が抜けた感覚になった。
だから、再び、月くんが俺のこと「晴陽」と呼んでくれたのが胸躍るほど嬉しかった。明日の試合、全力を出せるように頑張ろう。
スペイン戦で、勝利を治め、次は、準決勝のアメリカ戦。激闘を繰り広げたが、惜しくも敗れた。あと、もう少しだったから、ここまで戦えたことへの嬉しさの反面、ここまで来れたなら、勝てたかもしれないと悔しさが沸々と湧いてくる。でも、ベスト4と言う結果を残すことが出来たのは、日本にとって快挙だった。
試合が終わり、コートの中で立ち尽くしていた。敗北の悔しさを噛みしめながらも、試合の緊張感がまだ心に残っていた。疲労感が漂っていたが、それと同時に、達成感や仲間との絆が色濃く表れていた。
試合後、肩を組み、円陣を組んだ。コーチやチームメイトたちの言葉が響き渡る中で、晴陽は「みんな、最高の戦いだった。最後まで全力を尽くせたことを誇りに思おう」と伝えた。仲間たちも頷き、互いに励まし合った。
その後、選手たちはロッカールームに戻り、静かな空気が流れた。誰もが自分の気持ちを整理しようとしているようだったが、俺はそんな仲間たちの姿を見て、「この経験を忘れず、もっと成長しよう」と心に誓った。シャワーを浴びた後、自分のチームジャージを着ながら、仲間たちに「今度戦う時はライバルになっているかもしれない。その時は、今より成長した姿で会おう」と涙を堪えて、笑顔を見せると、皆、大きく頷き、抱きついてきた。せっかくシャワー浴びたのにと思わず顔を綻ばせると、涙が目から溢れてきた。
U18の試合を終えて日本に戻ると、周囲は変わり始めていた。帰国したばかりの彼を待ち受けていたのは、国内のプロバスケットボールチームのスカウトたちだった。自分のプレースタイルと試合での活躍を評価された結果、数人のスカウトから声をかけられた。特に、強豪チームのスカウトが、才能を高く評価し、直接面談の機会を提案してくれた。
その夜、俺は疲れた体を引きずりながら、自宅の自分の部屋でスマホを手にしていた。画面には、複数のメッセージが届いている。仲間たちや家族からの温かい言葉に応える一方で、これから、どうしようかと不安を胸に抱いていた。バスケのプロ選手になりたいけど、その道を突き進んでいくにつれて、友達との心の距離が離れていきそうで怖かった。
翌日、晴陽は総合体育館で、バスケットボールの強豪校からの大学推薦を受けるための面談を受けた。コーチたちは、彼の試合映像を見ながら熱心に話しかけてきた。
「君のプレースタイルは非常に素晴らしい。ぜひ、私たちのチームに来てほしい」
といった熱意を持った言葉が続く。
どうすればいいのか。
U18が終わったのに、日々忙しさが増す中で、晴陽は自分が色々なところから求められていることを実感していた。プロを目指す自分にとっては、夢を叶える道を用意されていて、その道から脱線したり、エンストしなければ、夢へを確実に叶えることができる。それと同時に由真や友達たちとの会話が遠のいていくことに対する焦りや胸の痛みが、日常に影を落としていた。
そんな中で、月くんと久しぶりに会ったのに、思うように会話が出来なかった。本当は嬉しさのあまり、抱きつきたかった。でも、月くんを刺した犯人がまだ見つかっていないし、俺のせいで、月くんが怪我してしまったのもあるから、近づけなかった。近づきたいのに、近づけない、理性を抑え込むしかなかった。月くんのことを思うと、耐えるしかなかった。
目を潤ませながらその場を離れたが、我慢できず、人気がいない所で、息を殺してすすり泣くことしか出来なかった。
それから、孤独をバスケに心酔することで、塗りつぶしていった。
その結果、年を跨がずして、進路が決まった。スポーツ推薦を受け、無事合格したバスケの強豪である青山学院大学への入学が決まり、そして、Bリーグに所属するクラブチームで複数回の優勝経験を持つ栃木にあるクラブチームに入ることが決まった。
時々、漣、功祐、しずく、メリッサと直接会う時間はなくとも、テレビ電話をしたり、LINEのやりとりをしていた。そのおかげで、孤独が少し、消えていったが、またすぐに雪のように降り積もる。
そして、しずくが、二月下旬にクラブチームの練習場所に現れた。そこで、月くんを刺した犯人と誹謗中傷をしていた犯人が無事捕まったと報告しに来た。しずくの話を聞いて、胸を撫でおろす。これで、月くんに危害が及ぶことがない。会いに行けるはずなのに…どういう表情で、どういう言葉をかけるべきなのか、あの日、素っ気ない態度をとってしまったせいで、接し方が分からなくなってしまった。
「晴陽、そんな顔しない。このままだと表情筋が柳のように下がっていくよ」
表情を強張らせている晴陽の顔に手を遣り、下がっている口角をあげて、喝を入れる。
「大丈夫。由真くんなら、分かってくれる。いや、すでに、分かっているな。話したから」
しずくは腕を組み、途中、鼻を鳴らしながら、口元を緩めて呟く。
「えっ⁉ どこまで」
晴陽の声が上ずる。
「私は、晴陽が由真くんを刺した犯人が捕まるまで、由真くんのことを思って心苦しながらも距離を取っていたこと。あと、メリッサが、晴陽の初恋について話していたから」
「メリッサの奴…」
拳を固く結ぶ。今目の前に、メリッサが現れたら、サウンドバッグのように殴られかねない。
「メリッサを責めないであげて」
むしろ、ナイスパスをしたと思うけどな…と小さい声でボソッと呟く。
聞こえたのか聞こえていないのか定かではないが、晴陽は、目をパチパチさせていた。
「まぁ、とにかく向き合いなさい」
しずくは、晴陽の肩を叩き、真剣な眼差しを注ぐと、練習場を後にした。
あの日以来、月くんが目覚めるまで、手を握っていたが、いつの間にか寝てしまい、先に目覚めた月くんが、俺に向かって「晴陽」と呼んでくれた以来。あの時、嬉しさのあま
り胸が熱くなってしまった。でも、「橘くん」呼びにすぐ戻る。その瞬間、膨らんだ風船が、一瞬にして空気が抜けた感覚になった。
だから、再び、月くんが俺のこと「晴陽」と呼んでくれたのが胸躍るほど嬉しかった。明日の試合、全力を出せるように頑張ろう。
スペイン戦で、勝利を治め、次は、準決勝のアメリカ戦。激闘を繰り広げたが、惜しくも敗れた。あと、もう少しだったから、ここまで戦えたことへの嬉しさの反面、ここまで来れたなら、勝てたかもしれないと悔しさが沸々と湧いてくる。でも、ベスト4と言う結果を残すことが出来たのは、日本にとって快挙だった。
試合が終わり、コートの中で立ち尽くしていた。敗北の悔しさを噛みしめながらも、試合の緊張感がまだ心に残っていた。疲労感が漂っていたが、それと同時に、達成感や仲間との絆が色濃く表れていた。
試合後、肩を組み、円陣を組んだ。コーチやチームメイトたちの言葉が響き渡る中で、晴陽は「みんな、最高の戦いだった。最後まで全力を尽くせたことを誇りに思おう」と伝えた。仲間たちも頷き、互いに励まし合った。
その後、選手たちはロッカールームに戻り、静かな空気が流れた。誰もが自分の気持ちを整理しようとしているようだったが、俺はそんな仲間たちの姿を見て、「この経験を忘れず、もっと成長しよう」と心に誓った。シャワーを浴びた後、自分のチームジャージを着ながら、仲間たちに「今度戦う時はライバルになっているかもしれない。その時は、今より成長した姿で会おう」と涙を堪えて、笑顔を見せると、皆、大きく頷き、抱きついてきた。せっかくシャワー浴びたのにと思わず顔を綻ばせると、涙が目から溢れてきた。
U18の試合を終えて日本に戻ると、周囲は変わり始めていた。帰国したばかりの彼を待ち受けていたのは、国内のプロバスケットボールチームのスカウトたちだった。自分のプレースタイルと試合での活躍を評価された結果、数人のスカウトから声をかけられた。特に、強豪チームのスカウトが、才能を高く評価し、直接面談の機会を提案してくれた。
その夜、俺は疲れた体を引きずりながら、自宅の自分の部屋でスマホを手にしていた。画面には、複数のメッセージが届いている。仲間たちや家族からの温かい言葉に応える一方で、これから、どうしようかと不安を胸に抱いていた。バスケのプロ選手になりたいけど、その道を突き進んでいくにつれて、友達との心の距離が離れていきそうで怖かった。
翌日、晴陽は総合体育館で、バスケットボールの強豪校からの大学推薦を受けるための面談を受けた。コーチたちは、彼の試合映像を見ながら熱心に話しかけてきた。
「君のプレースタイルは非常に素晴らしい。ぜひ、私たちのチームに来てほしい」
といった熱意を持った言葉が続く。
どうすればいいのか。
U18が終わったのに、日々忙しさが増す中で、晴陽は自分が色々なところから求められていることを実感していた。プロを目指す自分にとっては、夢を叶える道を用意されていて、その道から脱線したり、エンストしなければ、夢へを確実に叶えることができる。それと同時に由真や友達たちとの会話が遠のいていくことに対する焦りや胸の痛みが、日常に影を落としていた。
そんな中で、月くんと久しぶりに会ったのに、思うように会話が出来なかった。本当は嬉しさのあまり、抱きつきたかった。でも、月くんを刺した犯人がまだ見つかっていないし、俺のせいで、月くんが怪我してしまったのもあるから、近づけなかった。近づきたいのに、近づけない、理性を抑え込むしかなかった。月くんのことを思うと、耐えるしかなかった。
目を潤ませながらその場を離れたが、我慢できず、人気がいない所で、息を殺してすすり泣くことしか出来なかった。
それから、孤独をバスケに心酔することで、塗りつぶしていった。
その結果、年を跨がずして、進路が決まった。スポーツ推薦を受け、無事合格したバスケの強豪である青山学院大学への入学が決まり、そして、Bリーグに所属するクラブチームで複数回の優勝経験を持つ栃木にあるクラブチームに入ることが決まった。
時々、漣、功祐、しずく、メリッサと直接会う時間はなくとも、テレビ電話をしたり、LINEのやりとりをしていた。そのおかげで、孤独が少し、消えていったが、またすぐに雪のように降り積もる。
そして、しずくが、二月下旬にクラブチームの練習場所に現れた。そこで、月くんを刺した犯人と誹謗中傷をしていた犯人が無事捕まったと報告しに来た。しずくの話を聞いて、胸を撫でおろす。これで、月くんに危害が及ぶことがない。会いに行けるはずなのに…どういう表情で、どういう言葉をかけるべきなのか、あの日、素っ気ない態度をとってしまったせいで、接し方が分からなくなってしまった。
「晴陽、そんな顔しない。このままだと表情筋が柳のように下がっていくよ」
表情を強張らせている晴陽の顔に手を遣り、下がっている口角をあげて、喝を入れる。
「大丈夫。由真くんなら、分かってくれる。いや、すでに、分かっているな。話したから」
しずくは腕を組み、途中、鼻を鳴らしながら、口元を緩めて呟く。
「えっ⁉ どこまで」
晴陽の声が上ずる。
「私は、晴陽が由真くんを刺した犯人が捕まるまで、由真くんのことを思って心苦しながらも距離を取っていたこと。あと、メリッサが、晴陽の初恋について話していたから」
「メリッサの奴…」
拳を固く結ぶ。今目の前に、メリッサが現れたら、サウンドバッグのように殴られかねない。
「メリッサを責めないであげて」
むしろ、ナイスパスをしたと思うけどな…と小さい声でボソッと呟く。
聞こえたのか聞こえていないのか定かではないが、晴陽は、目をパチパチさせていた。
「まぁ、とにかく向き合いなさい」
しずくは、晴陽の肩を叩き、真剣な眼差しを注ぐと、練習場を後にした。