由真は夕暮れ時の部屋で、スマートフォンを手に取り、晴陽に連絡を取ることにした。電話より、LINEの方がいいと思い、メッセージを考えるが何て送ろうか頭を抱える。
「頑張ってね」
 確かに頑張ってという言葉は、相手を応援する言葉としてよく使われているが、すでに、見えない所で努力している橘くんにこの言葉は少し違うと思う。
「応援しているよ」
 この言葉もよく使われるが、何だか当たり前すぎる気がする。確かに応援はしている。でも、応援していなかったら、メッセージも送らないし、試合も見ないし、何よりのめり込むほど夢中にはならない。「応援しているよ」という言葉より、いい言葉があるはず…
 思考をグルグル回していると思いついた。よし、これにしよう。長くないし、シンプル。
 時計を見つめると、すでに日本は夜の8時を回っていた。

一方、ヨルダンのアンマンでは、まだ午後の4時を過ぎた頃。月くんがLINEを送ってきてくれた。皆からLINEのメッセージが鳴り止まず全てに変身できる余裕はなく、目を通すだけ通していたら、最後に月くんからのLINEが届いた。

『橘くんが全力で試合に挑めますように。日本から、画面越しで見守ります。僕は誰より、レンズを通して、誰よりも努力している姿を見て来たから。きっと大丈夫』
「月くん」
 晴陽は、スマホを胸に抱き寄せる。そして、日本の時間を調べ、一か八か電話をかける。

「はい」
 5コール目で、出てくれた。久しぶりの月くんの声。何だか落ち着くな。
「月くん、LINEありがとう」
「うん。明日の試合、おじいちゃん家にいつものメンバーで集まって精一杯応援するね」
「それは嬉しいな。月くんの声聞いたら、何だか緊張とか不安が解けていく。安心する」
「頑張…ううん。もう、橘くんは頑張っているから、僕が頑張れというのは違う。後は、今までの努力や頑張り、積み上げてきたものが惜しみなく発揮できますように…心から祈っている」
 LINEの言葉でも潤ってきたのに、直接声で聞くとさらに心が温かくなる。
「ありがと。もう少し、話していたいけど、もうそろそろ切るね」
「うん」
「じゃあ、また」
「待って。最後にこれだけ言わせて、晴陽…なら、大丈夫! 僕は信じている。じゃあ、お休み」
 由真は、心臓をバクバクさせながら言い切ると、咄嗟に電話を切った。