部屋の中に緊張が漂っている。夏の暑さは少しずつ和らぎ、朝晩は涼しい風が吹き始める。空は高く青く澄み渡り、日差しは柔らかく、少しだけ黄金色を帯びている。街の木々は、緑の濃さを増しながらも、時折葉先が黄色くなり始め、秋の訪れを感じさせる。五朗の家に集まって、晴陽がいる日本代表チームのU18国際大会の試合を観戦している。今日は、準々決勝で、相手はスペイン。部屋の中に緊張感が漂っている。リビングには由真、功祐、漣、しずく、由那、なぜかメリッサまでもが揃って座り、テレビ画面に視線を釘付けにしていた。会場の喧騒が、画面越しにも迫ってくるようだ。
「始まるぞ…」
　功祐が、少し興奮気味に身を乗り出し、画面を見つめる。
　試合が開始され、晴陽はスタートメンバーとしてコートに立っている。いつものリラックスした彼ではなく、どこか引き締まった面持ちで、相手選手を鋭い視線で見据えている姿に、皆は思わず息を呑んだ。
「晴陽、雰囲気変わった」
　しずくがぽつりと呟くと、由真は頷きながら画面を見つめた。
　シュートを決めるたび、声にならない歓声が部屋に響く。漣が拳を握り締め、「ナイス！」と小さな声でつぶやくと、功祐が「やっぱすげえよな」と笑顔を浮かべた。試合が進むにつれ、由真は自分の心臓が早く鼓動しているのを感じる。晴陽のプレー一つひとつが、彼の熱意と努力を物語っているようで、目を離すことができなかった。
「このまま押し切れ！」
　功祐が応援する声が、由真の鼓動と重なり、試合への熱がさらに高まっていった。妹の由那に視線を送ると、手を必死に固く結びながら、試合を真剣な眼差しで見つめ、「晴陽くん、頑張れと呟いていた。
　試合の終盤、緊張感が高まる中、晴陽が再びボールを手にする。チームが点差を縮めるべく必死に戦う姿に、由真たちは思わず手に汗を握り、息を呑んでいた。
「晴陽、いけ！」
　晴陽は相手選手を華麗にかわし、リングに向かってダンクシュートを放つ。ボールは完璧な弧を描いてリングに吸い込まれ、観客席からは歓声が上がる。
「やったー！」
　由真たちも思わず立ち上がり、拍手を送る。だが、試合はまだ終わっていなかった。
　残り時間がわずかになるにつれ、相手チームも必死に反撃を試みる。観客席からの声援が大きくなり、画面越しに伝わる興奮が一層強くなる。
「このまま突っ走れ！」
　功祐が叫ぶと、他のメンバーも心を一つにし、気合を入れる。最後の30秒、晴陽がボールを手にし、ゴールに向かって突進する。彼の目には、決意が宿っている。相手のディフェンスを華麗にかわし、シュート体勢に入る。
「行け、晴陽！」
　由真が思わず声を上げる。
　残り5秒、晴陽が放ったシュートが、ボールがリングをかすめ、今度こそ完璧に決まる。ブザーが鳴り響く中、ボールがネットに吸い込まれた。
「勝った！」
　歓声が部屋を包み、由真たちは一斉に飛び跳ねた。
「やったー！日本代表、優勝！」
　功祐が叫び、全員が喜びを分かち合う。由真は涙が溢れ、晴陽の頑張りに感動しながらも、誇り高い気持ちでいっぱいだった。試合後、選手たちがハイタッチを交わし、笑顔で抱き合う様子が映し出される。晴陽も友達と共に歓喜の瞬間を噛み締めていた。
「晴陽おめでとう！」
　漣が興奮を抑えきれずに画面越しにいる晴陽に向かって叫ぶ。由真も、乗じて、「おめでとう！」と叫ぶ。
　最高にかっこよかった。今度は僕が、橘くんの活躍をこの手で、世界中に届けたい。だから、カメラの技術を磨かなきゃと決意を胸にする。
「次は、強豪国、アメリカとの試合だね。お兄ちゃん」
　由那が、目を輝かせて、次の試合を楽しみにする。
「そうだね」