「今日は、転校生を紹介します」
 担任は変わらず福沢先生だったので、ひとまず安心だった。一見、やる気がなさそうに見えるが、生徒たちのことをよく見ていて、色々と話を聞いてアドバイスをしてくれる、上っ面だけ、良い先生をしている、リンゴで例えると、外は美味しそうな光沢のある赤が人を引き付けるのに、中は茶色く腐っている人よりは、外は傷があり、手に取る人が少なくても、いざ手に取ってみて、中を見てみたら密リンゴで果肉と芯がしっかりしているような先生が良いし、僕は、外面だけ良くしていて、中が腐っている人間だけにはなりたくないし、そう言う人たちを見極めることが出来る観察眼が欲しいと思っている。
「入っておいで」
「失礼します」
 皆、転校生が入ってくるドアに釘付けになる。
 び、美少女だ。ハーフと見まがうような整った顔立ちで、柔らかく波打つダークブラウンのロングヘアが印象的。肌は透明感があり、教壇に立つと陽光の下では彼女の淡い茶色の瞳がキラリと輝いている。背はすらりと高く、モデルのような立ち姿が自然と周囲の視線を集める。端正な顔立ちに、少し大人びた落ち着きを感じさせつつも、微笑むと、男女関係なしにクラスのほとんどが見惚れていた。
「城田芽里沙です。5才から今年の3月まで、親の仕事の都合でアメリカで暮らしていました。日本で過ごすのは、12年ぶりなので、緊張しています。メリッサか、メリーって皆読んでね」
「帰国子女?」「すごーい」「英語喋って」
「はーい。静かにーー」
「じゃあ、城田芽里沙。席は牧田しずくの隣で」
「はい」
「よろしくね。しずくちゃん」
「よろ…」
 しずくは、芽里沙の顔を間近で見てあることに気づく。石像のように固まるしずくを見て、芽里沙は、うん? と首を傾げる。しずくは、首を振り、笑顔をつくる。
「よろしくね。メリッサちゃん!」

「昼ごはん、どうしようか。功祐と晴陽は祐大たちと1組で食べるって」
 しずくが、由真の席にお弁当袋を持ってくる。
「相変わらず、転校生美少女は人気だね」
 由真の隣の席の漣が、芽里沙に群がるクラスメイトたちを見て、呟く。
「しずく! 私もお昼一緒していい?」
 移動教室から戻って来た来夏が、駆け寄る。
「もちろん!」「いいよ!」
 しずく、漣、由真は頷く。
「でも、教室だと、しばらくは、あの子目当てで人が殺到しそうだし、天気良いし、外行こ!」
 来夏が外に手を遣り、提案する。
「いいね!」

「転校生人気だね」
 来夏が、ホットな話題を振る。
「そうだな」
 漣が頷く。
「しずくよ。どうしたそんな顔して」
 来夏がしずくの異変に気付く。
「あの転校生の正体に気づいてしまった」
「え⁉」「ん⁉」
「あの子、晴陽の元カノだよ。アメリカで付き合っていたという。確か、高校一年生の冬休みに、部活の休憩時間に晴陽と近くのコンビニに行っている時に、いつの間にか尾行されていて、それで晴陽が気づき、あの子に、何よ、この女と至近距離で威嚇されたのを思い出した」
「そんなことあったの」
 来夏は、飲んでいたお茶を吹きこぼしそうになる。
「で、しずくは、どうしたの?」
 来夏が質問する。
「ただのバスケ部のマネージャーですけどと答えた」
「あぁ、しずく、功祐とまだ付き合っていたもんね」
 来夏が、しずくの彼氏遍歴を頭の中で見返しながら、呟く。
「えっ⁉」
 由真は驚きで手が止まってしまう。
「ツッキ―、知らなかったの?」
 漣が、目を瞬かせながら、サンドイッチを口の中に運ぶ。
「うん」
「漣も月くんもその話は終わりね」
 しずくは、分厚い本を閉じたかのような音と勢いで告げる。
「晴陽は、転校生美少女のことどう思っているんだろう?」
 漣が、晴陽がいるであろう教室の方に視線を遣って、呟く。
「元カノと言うことは否定しなかったけれど、ただの友達って言ってた」
 しずくは、頭を抱えて、あぁ…あぁ! と呻き声をあげ始める。
「大丈夫?」
 由真は、しずくを心配する。頭でも痛いのだろうか。
「平気! まぁ、あのメリッサが台風の目であることには限りないから、気をつけよ。特に月くん」
「う、うん⁉」
 なんで、僕⁉ と目を見開き、答えを知ろうと、漣、来夏を見るが、彼らは頷くだけで、何も分からなかった。