無事体調が回復し、日曜日の昼過ぎには帰ってきた。元々修学旅行なんて来なくてもいいと思っていたのに、友達が出来て修学旅行が楽しみになって、終わりに近づくにつれて寂しくなって、まさか体調崩して延泊することになるとは思いもしなかったけれどいい思い出になった。

 沖縄から戻り翌日。登校し、教室に入ると、心配していた功祐、漣、しずくたちが駆けつけてくる。ちょうど、由真の後に、欠伸をしながら、晴陽が教室に入ってくる。。
「ツッキ―、大丈夫?」
「うん。ごめん、心配かけてしまって」
「いいよ!」
「晴陽、おはよう!」
 由真は、振り返り、晴陽の姿を見ると、修学旅行でのことを思い出して、気づかないうちに頬が緩んでしまう。
「おはよ。月くん、おはよ」
 温かくて心地よい声が降り注ぐ。
「おはよ」
「晴陽も、こっちに帰って来るの遅かったんでしょ」
「そうだな。でも、楽しかった。修学旅行の延長戦。月くんの親戚の人に色々と連れて行ってもらったし、短ったけど、濃い時間過ごせたし」
 晴陽が由真の肩に手を組み、ニッと微笑む。同時に、胸がドクンと鳴る。
「えー。いいな」「うらやましい」
 義望の眼差しと声が、抜け駆けしたかのようにも捉えられる二人に注がれる。
「月くん。ちょっと」
 その中で、しずくが由真を引っ張り、晴陽に群がるクラスメイトたちの対角線上に移動する。どうしたのだろうとしずくに目を遣ると、焚火をしているかのように燃え上がる目の奥を見て、由真もその火に薪のように投げられてしまうのではないかと冷や冷やする。
「晴陽が月くんを運んでくれたの知ってる?」
「はい」
 担架を持ってきて運ぶのを手伝ってくれたと橘くんに聞いた。
「ちょっと嫉妬してしまった。抜け駆け…」
 最後の四文字が頭にダイレクトアタックしてくる。
 しずくは、決別だとふんと鼻を鳴らして顔を逸らし、怒る人の顔を逸らさないバージョンで由真をそんなに見てもいないのにも関わらず、穴が速攻で開くような威力を発揮させ睨みつける。由真は、そんなしずくを見て、全力で首を振って否定するが、見えていないようだ。
 怒っている視線ではないけど、この視線が何を現わしているのかがさっぱり分からない。 
 だから、余計に怖いです。
「えっ…」
 とりあえず、謝ったほうがいいよね。
「ご…」
「来夏、ちょっと…」
 来夏がしずくを連れ戻しにやってきて。去り際、来夏は、由真に口パクで「ご・め・ん」と謝る。

 自分のスマホに納められた晴陽が由真を運ぶ姿を見て、しずくは、あぁ…と雑巾を必死に絞るかのような表情をしている。いつでも見返すことができる写真っていいよねと心の中で呟く。
「見すぎていると、充電なくなっちゃうよ」
 来夏がやれやれと呆れた表情を浮かべる。
「また充電すればいいもん」
 しずくは、すねた子供のように、顔を膨らませる。そんな、しずくを来夏は、仕方ない子ねと言う視線で見ていた。
「あぁ…もうす…」
 しずくが何かを言いかける。
 修学旅行が終わり、賑やかな声で溢れている教室が、ドアが開いた瞬間、静かになった。  
 あ、先生が来た。