二日目。琉球文化体験。
 
 沖縄の青空が広がる朝。クラス全員が琉球文化体験をするため、琉球村に到着した。バスを降りると、心地よい海風が吹き、遠くから三線の音色が聞こえてくる。あたりには色鮮やかな伝統衣装を着たガイドさんたちが待っていて、沖縄ならではの独特な雰囲気が広がっていた。
「すごいなぁ…本当に違う国に来たみたいだ」
由真は、白壁と赤瓦屋根の伝統的な琉球建築を見ながら、目を輝かせていた。石垣が続く道を進むと、シーサーがこちらを睨むように鎮座している。晴陽、功祐、漣も一緒に歩きながら、思わず写真を撮る。
「沖縄っぽさ全開だよね」
しずくは琉球村の看板の前でポーズを取り、由真にカメラを向けるように促した。
「それでは、これから琉球舞踊の体験と、シーサー作りの工芸体験を行います」
ガイドの声が響くと、全員が興奮した様子で次の指示を待つ。
 まずは琉球舞踊の体験だ。講師の先生が登場し、見本としてゆったりとした音楽に合わせて踊り始めた。腕を優雅に動かしながら、ゆっくりと足を運ぶその姿は、どこか厳かで美しかった。生徒たちは見よう見まねで動いてみるが、動きが思うように優雅にならない。
「難しいな…」
 功祐が苦笑しながら、少しぎこちなく手を動かしていたのを見て、周りのみんなが笑い出す。
 その後、シーサー作りが始まった。小さなテーブルに座り、粘土を使って一人ひとりがシーサーの形を作る。職人さんの指導のもと、自由に造形を楽しむ時間だ。
「月くんのシーサー、かっこいい」
 晴陽が隣で彼の作ったシーサーを覗き込み、感心したように言った。
「いや、そんなことないよ。これ、バランス崩れたらすぐ壊れちゃいそう」
 由真は真剣な顔でシーサーの顔に細かい模様を彫りながら、慎重に仕上げていた。
 しずくや他のクラスメイトもそれぞれ個性的なシーサーを作り上げ、完成品を見せ合いながら盛り上がっていた。
「やっぱりみんなの個性出るよね」
 来夏が笑いながら、自分のちょっとユニークなシーサーを誇らしげに掲げた。
 琉球文化体験が終わり、全員が満足げな表情で自分たちの作品を持ちながら、村の出口に向かう。三線の音が再び耳に心地よく響く中、彼らはこの日、沖縄の歴史と文化をほんの少し自分たちの手と心で感じ取ることができた。

「修学旅行と言えば、恋バナでしょ。晴陽は彼女とかは…?」
 功祐が、ベッドの上で胡坐を掻いて問いかける。
「俺はそういうの興味ないし」
 壁際のベッドの晴陽は、壁に寄り掛かり、バスケ雑誌を開いている。
「初恋とかないの?」
 功祐が、頬をハリセンボンのように膨らませて聞く。
「前、聞いた気もしないこともないが、今回はツッキ―もいるから聞かして。少しでいいからさ」
 功祐の隣にいる漣が、功祐に助け舟を出す。
「ツッキ―も聞きたいよな」
 功祐は、カメラを持って、撮った写真を確認している由真まで巻き込む。
「うん、興味ある」
 由真の言葉を決め手に、晴陽は話すことにする。
「わ、分かったよ」
 晴陽は、バスケ雑誌を閉じ、咳ばらいをする。
「お願いします」
「少しだけ。俺の初恋は、7才。地域のバスケチームで、バスケの習い事を始めたものの、半年経っても、ゴールが1個も入らず、バスケットゴールがある公園で一人練習していた。すると、ある時、同い年ぐらいの女の子が、カメラを持ってウロウロしていて、そのカメラを俺に向けてレンズ越しに視線を感じた。その瞬間、ゴールに向かってボールを放った。すると、ゴールが決まった。嬉しくて、振り返り、お礼を言おうと思ったが、その子は、おばあちゃんに家帰るよと言われて、帰って行った。横顔しか見えなかったのだが、柔らかな風にショートの髪を揺らし、夕日に映えた瞳がキラキラと輝いていた」
「わぁ…」
 晴陽の話に、由真、功祐、漣が目を見開き、胸をときめかせる。
「その子とは?」
 漣が質問を投げかける。
「それ以来、会えていない。親の海外赴任が決まったし、今どうしているか…」
 晴陽の瞳に、ふと哀愁の色が宿る。それはほんの一瞬だったけれど、由真の目にははっきりと映り込んでいた。そして、心の奥で何かが静かに波立つような感覚に包まれれる。
「あぁ…」
 あともう少しでゲームクリアという所で、ミスを犯してゲームオーバーになってしまった時に出るような落胆の声を聞き手の3人は浮かべる。
「そうだったんだね」
 晴陽の初恋に、由真の胸がキュッと痛くなる。
「俺話したんだから、皆も話して」
「眠くなったから、寝るわ」
 漣が布団を頭に被り始める。
「俺も」
 功祐も漣に続く。
「あ、えっと、僕も」
 由真も戸惑いながらも、功祐と漣に続き、布団に潜ろうとする。
「あ、待って」
 晴陽は立ち上がり、隣のベッドに座っている由真の右手を掴み、由真のベッドに座る。
「月くんは、初恋って」
 興味津々に目を輝かせて聞いてくる。
「初恋…」
 それは、僕の目の前にいます。
 あの日、体育館で君と出会い、シャッターを切った。心の中のシャッターはあの日からずっと切ったままで、切り終わることなどないと思うし、離れたって、君の活躍や幸せを心から応援したい。これが、恋なのか尊敬なのか、白黒つけることは出来ないが、間違いなく、橘くんは、僕の心にとっての大きな支えになっている。この世の中に白黒つけないほうがいいことって、案外あると思う。