飛行機が沖縄に向けて降下し始めると、窓の外の景色が果てしない青空から、鮮やかなターコイズブルーの海へと変わっていった。小さな島々が点在するその海面は、太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。飛行機を降りた瞬間、出発地よりも少し温かい空気が肌に心地よく、クラスのみんなの間には期待と興奮が広がっていた。
 空港の外に出ると、頭上には澄み切った沖縄の秋空が広がり、遠くにはヤシの木がゆっくりと揺れているのが見えた。太陽の光は周囲の景色をより鮮やかに映し出し、特に緑豊かな草木が目に飛び込んでくる。みんながそれぞれの荷物を肩に掛けながら、初めての沖縄に心を弾ませ、賑やかに会話を交わしていた。
 1日目は、平和学習。バスで向かった先は、戦争の記憶が深く刻まれた沖縄平和祈念公園。遠くに広がる青い海とは対照的に、ここは静かで重々しい雰囲気に包まれていた。
「これが戦争の跡…」
 由真は、慰霊碑に刻まれた無数の名前を見つめながら、言葉を失っていた。学校で何度も学んだことが現実として目の前に広がっている。冷静なつもりでいたが、戦争の悲惨さがこの場所を訪れて改めて実感として胸に迫ってくる。
「多くの命が失われたんだな…」
 晴陽も由真の隣で、静かに慰霊碑に目を向けた。功祐やしずく、クラスメイトたちもそれぞれ、深い思いを抱えながら公園内を歩いていた。
 平和記念資料館の中に入ると、戦時中の写真や映像が展示されており、戦争体験者の証言が静かに流れていた。その中には、沖縄戦で亡くなった子供たちや家族の姿が映し出され、見ている誰もが言葉を失っていた。由真は、当時の沖縄の人々の苦しみを映し出した写真に目を向けながら、今の自分たちが平和に生きられることがどれほどの犠牲の上に成り立っているのかを考えていた。
「写真って、すごいよな。こうやって、後世に語り継いでいく役割をしている」
 晴陽が由真の横で、ふと言葉を零す。
「うん。写真があるからこそ、現実味が増す。向き合うきっかけをくれる。写真は良い瞬間を切り取るだけではなく、こういったことが過去にあったと胸が痛くなることまで切り取って、胸に刻むためにあるものだと思っている」
「すごいな、月くん」
「えっ⁉」
「尊敬する。俺も、月くんの意見に賛成」
 カメラマンや写真家の人ってすごいなと展示された写真や映像を見て、改めて感じた。

 晴陽は真剣な表情で展示物を見つめ、語り部の人の話に耳を傾けていた。普段明るい功祐やしずくも、この時ばかりは真剣な眼差しで説明に耳を傾け、重たい沈黙の中でそれぞれが何かを感じ取っているようだった。
 外に出ると、鮮やかな沖縄の空が広がっていた。由真は深く息を吸い込み、改めて今の平和を大切にしなければならないと心に誓った。

「誰かとこうして笑って過ごせたりできるのって当たり前のようで、当たり前じゃないんだよな。平和についてもっと考えなきゃなって、改めて思い知らされた」
 功祐が静かに呟く。その言葉に、周りの友人たちも深く頷き、平和学習は静かな余韻を残しながら終わっていった。