スーパーをはしごし、買い物を終え、帰路についているところだ。腕時計に目をやると、十一時。柔らかな日差しが道を照らし、二人の影がアスファルトに伸びていた。街路樹の緑が風に揺れ、どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。周囲には行き交う人々の姿がちらほら見え、週末の穏やかな雰囲気が漂っていた。
「荷物、持ってくださりありがとうございます」
優月が申し訳なさそうに言うと、廉介は首を横に振る。
「重たいし、大変だから。これぐらい大丈夫」
「ありがとうございます」
「嶋田さんって、よく自炊するの? なんかスパスパ買い物していたから」
廉介は優月の買い物の手際の良さに感心していた。迷いなく商品を選び、後ろをついていくのに必死だった。値段を見比べてどっちがお得か、どのタコがいいか、野菜の鮮度を確かめながら、テキパキとカゴに入れていく姿、さらに予算内に収めるために特売のチラシを手に抱え、スーパーをはしごする姿を見て、かっこいいと心の底から思った。
「私の家、共働きでご飯は私が作っていたので、昔からスーパーに買い出し、よく来てたんです。両親が海外に赴任してから、梨乃ちゃんと守くんのお店の二階に住ませてもらうようになってからは、ありがたいことに営業日は晩ご飯用意してくれるので、今は学校に持っていくお弁当と朝食のことだけ考えればいいので気が楽です」
優月の説明に感心して心の中で拍手を送る廉介。
お弁当も朝ご飯も自分で用意しているなんて偉い。俺なんて、いつも母さんが作ってくれていたから。
「偉いよ。尊敬する」
「大袈裟ですよ。帰ったらタコパの準備しますね」
優月の笑いのツボが押される。すると、廉介の顔にも笑みが浮かんだ。
「タコパ久しぶりだな」
大学生の頃、サークルで一度やったタコパが頭に浮かび、懐かしい気持ちに浸る。
「私は高校の友達とたまにやったりします」
「そうなんだ」
そよ風のように会話が二人の間に流れる。道端には花が咲き、風に揺れる草の香りが漂っている。
「わーっ、可愛い!」
優月が心の声を漏らす。視線の先には、たんぽぽの綿毛のように儚い可愛さを持った小さなポメラニアンとチワワのミックスが尻尾を振ってこちらを見上げて近づいてくる。その愛くるしい姿に、優月は一瞬、心が和んだ。
「ユヅ」
不意に名前を呼ばれたような気がして、電気が迸るように胸が高鳴った。優月と呼ばれることがほとんどだが、親しい人からはユヅと呼ばれることもあった。しかし、今さっきの声は、高岡先生の声だった。でも、高岡先生は私のこと「嶋田さん」と呼ぶ。聞き間違えだと自分に言い聞かせて、さっきの記憶をたんぽぽの綿毛を吹くかのように吹きとばす。
「あぁ、ごめん。あの子、昔飼っていたチワワのユズに似ているんだ」
やっぱり、私ではなかった。生きていれば、勘違いすることも多々ある。すぐ忘れると言い聞かせる。
「そうなんですね……」
「あぁ。どうしているかな…」
廉介が空を仰ぎ、物憂げに呟く。
その姿を見て、優月は何だか切ない気持ちになる。
――ユズ。
忘れようとしていたのに、さっきのこの言葉が頭の中に再び現れる。ユズシャーベット、ユズ塩ラーメン、ユズの香りの入浴剤、今までにそこまで多くないけど、「ユズ」がつくものを目や口にしてきたけど、その時と何だか違う。高岡先生の言葉から出てきた「ユズ」は。飼われていた犬の名前なんだけど…この声を聞くの初めてじゃない。どこかで聞いたことある。鍵穴に気づかないうちに鍵が刺さり、開く音がした。鍵が開いたのに、開けることを拒んでいる。開いてしまったら、後戻りできない気がする……。開けたい気持ちも、開けたくない気持ちがせめぎ合っている。
占い師の言葉が頭の中を反芻する。
――高岡先生に初めて会った時、なぜだか初めてあった気がしなかった。むしろ懐かしく思った。
どうしてだろう……と頭のどこかで考えていた。答えなんてそう簡単に見つかるはずないって思って、忘れようとしていたのに。
オレンジと白を基調としたエプロンをして、台所に優月は立つ。材料を切っている間、廉介はたこ焼きの液を作っていた。
「残ったら朝ご飯に食べるので、六十個分の分量でたこ焼きの粉の裏に書いてある通りで作ってください。お願いします」
「分かった」
優月の指示に従い、廉介は、レシピを見ながら粉を計り、ボウルに入れ、卵を割り、水を注いで混ぜる。初めてのたこ焼き作りにワクワクしながら、慎重に手を動かす。
「よしできた。これでいい?」
「ばっちりです」
たこ焼きに必要な材料を全て切り終え、机に並べる。皿にはキャベツの千切り、市販のカットネギ、紅ショウガ、天かす、ぶつ切りにしたタコ、枝豆コーン、ウィンナー、チーズが入っている。
「じゃあ、作っていきましょう!」
優月の掛け声で、廉介はボウルを持ち、そのまま液を流しこもうとする。
「待ってください。油、ひくので」
廉介を優月は制止する。
「ごめん」
やってしまった。普段料理しないのがバレバレだと苦虫を嚙み潰したようかのような表情を浮かべる。
「先生は、液が沈殿しているので、混ぜておいてください」
廉介は優月の指示通りに、液をグルグル混ぜる。
「分かった」
「全体に流してくれませんか。丸い穴が半分浸るぐらいにお願いします」
「これぐらい?」
「はい。じゃあ、次はタコとか具材入れていきましょう」
「そして、さらに液をひいて、キャベツ、ネギ、紅ショウガ、天かすを均等に載せていきます」
「それで、この串ではみでている部分を丸い穴へと納めていきます」
串カツや三色団子に刺さっているような串を使って、たこ焼きを形成していく優月の手際の良さに感心する廉介。
「本当は、たこ焼き回す専用の串でやった方がいいんですけど、串がなかったので」
「でも、すごい!」
「先生もやります?」
「おぉ」
「ちょうどいい焼き目。ひっくり返していきましょう」
「OK!」
「よし、できた! 先生、お先にどうぞ」
優月は出来上がったたこ焼きを一つずつ皿にのせて廉介に渡す。
「ありがとう」
お店の物に劣らないレベルのたこ焼きに目を奪われる。
「先生ビール飲みます?」
冷蔵庫に、飲み物を取りに行った優月が問いかける。
「え、ビールあるの?」
未成年一人が住んでいる家の冷蔵庫にビールがあることに驚く。
「守くんが置いて行ったビールが冷蔵庫で眠っています」
「そうなんだ。じゃあ、貰おうかな」
「分かりました。え、冷た⁉」
目玉を落としそうなくらい驚く優月。
「え、そんなに!」
優月は、廉介の目の前にビール缶を差し出す。
「確かにこれは冷たいね」
「コップいりますか?」
「大丈夫! そのまま飲む」
「どうぞ!」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ、お先に、いただきます」
割り箸でたこ焼きを挟み、口の中に運ぶ。
「美味しい。あっつ」
たこ焼きの熱さでもがいている廉介の様子を見て、優月は相好を崩す。
「トロっとして、キャベツの食感がいいアクセントを出していて美味しい。今まで食べたたこ焼きで一番おいしいかも」
熱さが収まりつつある中、廉介は感想を口にする。
「そんな大げさです」
優月は、照れてしまう。
「いや、いや本当! たこ焼き回すの上手だし」
「両親が海外に行ってしまう前、家族でも一緒に月二ぐらいのペースでタコパしていたんです。母が昔、たこ焼き屋でアルバイトしていたので、焼き方のコツ教わっていたんです」
「そうなんだ。どうりで、たこ焼き作るの上手いわけだ」
「はい、あ、えっと、はい」
たこ焼きを回すのに集中しすぎるあまり、無意識に「はい」と答えてしまったが、ここは謙遜すべきなのかとふと頭に過り、悩んだ挙句、たこ焼き回すの自己紹介の特技欄に書けそうと思い、結局「はい」に帰着する。
そんな優月の様子を見て、廉介は、思わず口元が綻ぶ。
「次、何入れます?」
「じゃあ、枝豆コーンとチーズで」
「いいですね! 美味しそう!」
「話変わるんですけど、先生が飼われていた犬のユズちゃんって、名前の由来、もしかしてユズレモンスカッシュからですか」
優月は、カルピスが入ったコップを机に置き、深呼吸を密かにして、廉介に尋ねた。
「そうだよ。よく分かったね」
廉介は少し驚いた表情で答える。
「まぁ、何となく」
優月は口を濁し、頑張って口角をあげて微笑む。
「この子の名前どうする?」
廉介の実家のリビングで両親が膝にマロン色のチワワを抱えた六才の廉介に問いかける。
「ココア、マロン、モカ、うーん」
廉介より先に答える父の真吾。息子より先走る旦那に対し、母の麻美は一瞬目を細め、息子に視線を移して意見を聞く。
「廉は何がいい?」
飲んでいたユズレモンスカッシュの文字を見て閃く。
「ユズはどう?」
「ワンワン」
目を輝かせて、嬉しさを爆発させる。気に入ったよ、ユズという名前!
「この子も納得しているわ」
麻美が手を合わせて微笑む。
「じゃあ、ユズちゃん!」
尻尾を振りながら、ユズは、廉介に飛び付き、顔をペロペロして喜びを体現している。
――どうしよう。あの占い師が言うとおり、私、前世犬だ。マロン色のチワワのメスだ。
そして、目の前にいるこの人が、私の前世の飼い主だ。そうじゃない可能性よりそうである可能性の方が限りなく大きい。じゃなきゃ、何でこんなに鮮明に記憶が流れているんだ。
「荷物、持ってくださりありがとうございます」
優月が申し訳なさそうに言うと、廉介は首を横に振る。
「重たいし、大変だから。これぐらい大丈夫」
「ありがとうございます」
「嶋田さんって、よく自炊するの? なんかスパスパ買い物していたから」
廉介は優月の買い物の手際の良さに感心していた。迷いなく商品を選び、後ろをついていくのに必死だった。値段を見比べてどっちがお得か、どのタコがいいか、野菜の鮮度を確かめながら、テキパキとカゴに入れていく姿、さらに予算内に収めるために特売のチラシを手に抱え、スーパーをはしごする姿を見て、かっこいいと心の底から思った。
「私の家、共働きでご飯は私が作っていたので、昔からスーパーに買い出し、よく来てたんです。両親が海外に赴任してから、梨乃ちゃんと守くんのお店の二階に住ませてもらうようになってからは、ありがたいことに営業日は晩ご飯用意してくれるので、今は学校に持っていくお弁当と朝食のことだけ考えればいいので気が楽です」
優月の説明に感心して心の中で拍手を送る廉介。
お弁当も朝ご飯も自分で用意しているなんて偉い。俺なんて、いつも母さんが作ってくれていたから。
「偉いよ。尊敬する」
「大袈裟ですよ。帰ったらタコパの準備しますね」
優月の笑いのツボが押される。すると、廉介の顔にも笑みが浮かんだ。
「タコパ久しぶりだな」
大学生の頃、サークルで一度やったタコパが頭に浮かび、懐かしい気持ちに浸る。
「私は高校の友達とたまにやったりします」
「そうなんだ」
そよ風のように会話が二人の間に流れる。道端には花が咲き、風に揺れる草の香りが漂っている。
「わーっ、可愛い!」
優月が心の声を漏らす。視線の先には、たんぽぽの綿毛のように儚い可愛さを持った小さなポメラニアンとチワワのミックスが尻尾を振ってこちらを見上げて近づいてくる。その愛くるしい姿に、優月は一瞬、心が和んだ。
「ユヅ」
不意に名前を呼ばれたような気がして、電気が迸るように胸が高鳴った。優月と呼ばれることがほとんどだが、親しい人からはユヅと呼ばれることもあった。しかし、今さっきの声は、高岡先生の声だった。でも、高岡先生は私のこと「嶋田さん」と呼ぶ。聞き間違えだと自分に言い聞かせて、さっきの記憶をたんぽぽの綿毛を吹くかのように吹きとばす。
「あぁ、ごめん。あの子、昔飼っていたチワワのユズに似ているんだ」
やっぱり、私ではなかった。生きていれば、勘違いすることも多々ある。すぐ忘れると言い聞かせる。
「そうなんですね……」
「あぁ。どうしているかな…」
廉介が空を仰ぎ、物憂げに呟く。
その姿を見て、優月は何だか切ない気持ちになる。
――ユズ。
忘れようとしていたのに、さっきのこの言葉が頭の中に再び現れる。ユズシャーベット、ユズ塩ラーメン、ユズの香りの入浴剤、今までにそこまで多くないけど、「ユズ」がつくものを目や口にしてきたけど、その時と何だか違う。高岡先生の言葉から出てきた「ユズ」は。飼われていた犬の名前なんだけど…この声を聞くの初めてじゃない。どこかで聞いたことある。鍵穴に気づかないうちに鍵が刺さり、開く音がした。鍵が開いたのに、開けることを拒んでいる。開いてしまったら、後戻りできない気がする……。開けたい気持ちも、開けたくない気持ちがせめぎ合っている。
占い師の言葉が頭の中を反芻する。
――高岡先生に初めて会った時、なぜだか初めてあった気がしなかった。むしろ懐かしく思った。
どうしてだろう……と頭のどこかで考えていた。答えなんてそう簡単に見つかるはずないって思って、忘れようとしていたのに。
オレンジと白を基調としたエプロンをして、台所に優月は立つ。材料を切っている間、廉介はたこ焼きの液を作っていた。
「残ったら朝ご飯に食べるので、六十個分の分量でたこ焼きの粉の裏に書いてある通りで作ってください。お願いします」
「分かった」
優月の指示に従い、廉介は、レシピを見ながら粉を計り、ボウルに入れ、卵を割り、水を注いで混ぜる。初めてのたこ焼き作りにワクワクしながら、慎重に手を動かす。
「よしできた。これでいい?」
「ばっちりです」
たこ焼きに必要な材料を全て切り終え、机に並べる。皿にはキャベツの千切り、市販のカットネギ、紅ショウガ、天かす、ぶつ切りにしたタコ、枝豆コーン、ウィンナー、チーズが入っている。
「じゃあ、作っていきましょう!」
優月の掛け声で、廉介はボウルを持ち、そのまま液を流しこもうとする。
「待ってください。油、ひくので」
廉介を優月は制止する。
「ごめん」
やってしまった。普段料理しないのがバレバレだと苦虫を嚙み潰したようかのような表情を浮かべる。
「先生は、液が沈殿しているので、混ぜておいてください」
廉介は優月の指示通りに、液をグルグル混ぜる。
「分かった」
「全体に流してくれませんか。丸い穴が半分浸るぐらいにお願いします」
「これぐらい?」
「はい。じゃあ、次はタコとか具材入れていきましょう」
「そして、さらに液をひいて、キャベツ、ネギ、紅ショウガ、天かすを均等に載せていきます」
「それで、この串ではみでている部分を丸い穴へと納めていきます」
串カツや三色団子に刺さっているような串を使って、たこ焼きを形成していく優月の手際の良さに感心する廉介。
「本当は、たこ焼き回す専用の串でやった方がいいんですけど、串がなかったので」
「でも、すごい!」
「先生もやります?」
「おぉ」
「ちょうどいい焼き目。ひっくり返していきましょう」
「OK!」
「よし、できた! 先生、お先にどうぞ」
優月は出来上がったたこ焼きを一つずつ皿にのせて廉介に渡す。
「ありがとう」
お店の物に劣らないレベルのたこ焼きに目を奪われる。
「先生ビール飲みます?」
冷蔵庫に、飲み物を取りに行った優月が問いかける。
「え、ビールあるの?」
未成年一人が住んでいる家の冷蔵庫にビールがあることに驚く。
「守くんが置いて行ったビールが冷蔵庫で眠っています」
「そうなんだ。じゃあ、貰おうかな」
「分かりました。え、冷た⁉」
目玉を落としそうなくらい驚く優月。
「え、そんなに!」
優月は、廉介の目の前にビール缶を差し出す。
「確かにこれは冷たいね」
「コップいりますか?」
「大丈夫! そのまま飲む」
「どうぞ!」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ、お先に、いただきます」
割り箸でたこ焼きを挟み、口の中に運ぶ。
「美味しい。あっつ」
たこ焼きの熱さでもがいている廉介の様子を見て、優月は相好を崩す。
「トロっとして、キャベツの食感がいいアクセントを出していて美味しい。今まで食べたたこ焼きで一番おいしいかも」
熱さが収まりつつある中、廉介は感想を口にする。
「そんな大げさです」
優月は、照れてしまう。
「いや、いや本当! たこ焼き回すの上手だし」
「両親が海外に行ってしまう前、家族でも一緒に月二ぐらいのペースでタコパしていたんです。母が昔、たこ焼き屋でアルバイトしていたので、焼き方のコツ教わっていたんです」
「そうなんだ。どうりで、たこ焼き作るの上手いわけだ」
「はい、あ、えっと、はい」
たこ焼きを回すのに集中しすぎるあまり、無意識に「はい」と答えてしまったが、ここは謙遜すべきなのかとふと頭に過り、悩んだ挙句、たこ焼き回すの自己紹介の特技欄に書けそうと思い、結局「はい」に帰着する。
そんな優月の様子を見て、廉介は、思わず口元が綻ぶ。
「次、何入れます?」
「じゃあ、枝豆コーンとチーズで」
「いいですね! 美味しそう!」
「話変わるんですけど、先生が飼われていた犬のユズちゃんって、名前の由来、もしかしてユズレモンスカッシュからですか」
優月は、カルピスが入ったコップを机に置き、深呼吸を密かにして、廉介に尋ねた。
「そうだよ。よく分かったね」
廉介は少し驚いた表情で答える。
「まぁ、何となく」
優月は口を濁し、頑張って口角をあげて微笑む。
「この子の名前どうする?」
廉介の実家のリビングで両親が膝にマロン色のチワワを抱えた六才の廉介に問いかける。
「ココア、マロン、モカ、うーん」
廉介より先に答える父の真吾。息子より先走る旦那に対し、母の麻美は一瞬目を細め、息子に視線を移して意見を聞く。
「廉は何がいい?」
飲んでいたユズレモンスカッシュの文字を見て閃く。
「ユズはどう?」
「ワンワン」
目を輝かせて、嬉しさを爆発させる。気に入ったよ、ユズという名前!
「この子も納得しているわ」
麻美が手を合わせて微笑む。
「じゃあ、ユズちゃん!」
尻尾を振りながら、ユズは、廉介に飛び付き、顔をペロペロして喜びを体現している。
――どうしよう。あの占い師が言うとおり、私、前世犬だ。マロン色のチワワのメスだ。
そして、目の前にいるこの人が、私の前世の飼い主だ。そうじゃない可能性よりそうである可能性の方が限りなく大きい。じゃなきゃ、何でこんなに鮮明に記憶が流れているんだ。