守が提供してくれた家に引っ越す一日前、仕事を少し早めに切り上げて、一週間お世話になったビジネスホテルに戻り、荷物を詰めていた。荷物のほとんどが同棲していたあの家に置いてきたため、持ってきた荷物は海外に行く用のスーツケース一個とリュックサックに収まる程度だった。そのため、明日のホテルのチャックアウトに向けて散らかった部屋を片付け、荷物をまとめて掃除するぐらいだから、思ったより早く終わりそうだ。終わったら、コンビニでビールでも買うか。よし、あと少し頑張ろうと手を叩いて、やる気を奮い立たせた瞬間、ベッド横の机に置いていたスマホが振動する。
「守、どうした?」
「廉介、一つ言い忘れていたことあるんだけど」
「え、何⁉」
 明日引っ越すと言うのにいったい、守は何を隠しているのか。
「実は、二階の部屋、もうすでに一人住んでいるんだ」
 衝撃的な発言に脳天をぶち抜かれたかのようだった。幽霊? 座敷童? いやいや、混乱で、思考が違う方に行ってしまっている。唾を飲み込み、冷静さを取り戻す。
「ルームシェア?」
「梨乃のお姉さんと旦那さんが海外赴任していて、その娘を今預かっていて、春休みから、二階に住んでいるんだ。新居だと部屋余っているから、新居来ないかと言ったんだけど学校から近いし、今のままでいいって。安心してくれ、部屋は別々だ」
 梨乃さんは、守の妻で、お腹に赤ちゃんを身ごもっていると、この前、一緒に飲んだ時に、言っていたのが、頭にポンと出てくる。
「あ、え?」
 どういうことなのか呑み込めていないのだけど……。
「手は出すなよ、廉介」
 守は、釘を刺す。
 え、まさか女? 学校っていうことは、学生。大学生……? 引っ越し一日前に、守から告げられた真実に、急にあたりが停電したかのような衝撃を受けた。