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「廉介、お疲れ。遅かったな」
「今週、受験の子がいたから勉強付き合っていたら、こんな時間になった」
「優月ちゃん、疲れて寝てしまった。ほらぁ」
 カウンター席で、手を枕にして、気持ちよさそうにスヤスヤ眠っている。
「ユヅ」
 頬を人差し指でツンと差し、廉介は微笑む。
「もう店じまいだから俺も飲むわ」
「おぉ」

「乾杯」
 疲れているからだにビールが染みわたる。ビールはどんな時も裏切らない。
「廉介、自分の気持ちに正直になりなよ」
「えっ⁉」
 守の言葉に、目を丸くする。飲み干した危うくビールが飛び出してしまいそうだった。
「好きなんだろ」
 守が寝ている優月に目を遣り、戻して廉介に問う。
「年が離れすぎている。年で考えると、俺の方がこの子より先に死んでしまうし、俺なんかより、年が近くていい人たくさんいるだろうに。何で俺なんかに…」
 お酒の勢いで、つい本音が漏れる。
「そんなことで悩んでいたのか」
「え、なんで」
 守に、俺の気持ちを読まれていたことへの驚きが遅れてやってくる。驚く前に本音が零れてしまった。
「二人を見てたら分かる、お互いを見る眼差しが物語っている。優月ちゃんが家出したときから、もう廉介はこの子が好きなんだなって」
 もうそんな早い段階から……。
「守も梨乃ちゃんも咎めたりしなかったよな」
「それは、二人が何だか特別な絆で結ばれているかのように見えていたから。言いかえるとただならぬ関係」
 ただならぬって、まぁ、この子の前世で繋がりがあったから、確かにその通りだけど。それだと変な性的な関係を第一に想像されるから、正直言うと、何もかもただならぬで、まとめて欲しくない。
「そうか」
 ジョッキの底にいる溶けていく氷を見つめながら言う。
「長さなんかより、どれだけ密度濃い時間過ごせるかが大切だと俺は思う。関係が変わったとしても、優月ちゃんと廉介ならそれができる。俺は応援しているから。自分の気持ちに蓋することだけは辞めなよ」
 守の言葉がスッと心に沁み込んでいく。
 こういう時に、守っていい言葉をくれるんだよな。守の周りは、常に笑顔の人で溢れている。お調子者で、たまに胃もたれするような絡み方をしてくるけど人を傷つけることは言わないんだよな。守は周りのことをよく見えている、顔や言葉にはしないが、観察眼が優れている。だから、こいつの周りには、人が集まるのだな。こいつと仲良くなれて良かった。

「分かった」
 守が優月の横で酔いつぶれて寝ていた。