2月中旬、冬の冷たさが肌に染みる朝。空気は凛と澄んでおり、吐く息が白く漂う。朝早くから街のあちこちで受験生たちが慌ただしく歩く姿が見える。大学のキャンパスへ向かう道沿いには、まだ冬の名残を感じる裸の木々が並び、灰色の雲がゆっくりと空を覆っている。
　大学の正門には、緊張感が漂う受験生たちの姿。手には問題集や筆記用具、そして大きな期待や不安が握られている。校舎へ続く石畳の道には、細かな霜がキラキラと光っているが、すでに数多くの受験生の足跡が残されていた。
「忘れ物ない？」
「うん」
「ユヅは頑張ってきた。近くで見てきた俺が証明する。だから、どんと構えて、来るべき敵をバーンと倒しておいで」
　思わず廉くんの言葉に吹き出してしまう。普段は言わないような言葉で、緊張をほぐしてくれたのかなと思うと、廉くんって優しいなと改めて思う。
「分かった。ＨＰがなくならないようにバーンとやってくる」
「そう、そのいきだ」
「じゃあ、そろそろ行くね」
「ユヅ、いってらっしゃい」
「行ってきます」
　手を振ると、向きを変えて、会場内に向かって足を進めていくが、何かを思い出したかのように立ち止まる。そして、廉介の元に走っていく。
「待って、廉くん。お願いがある」
「ど、ど、どうした？」
　手を膝につき、息を整えて、廉介の目を見る。
「俺が叶えることが出来るなら叶える。どうした？」
　優月は、迷いを払拭して、意を決したかのように口を開く。
「合格したら、私と付き合って欲しい。じゃあ、行ってきます」
　言いたいことを吐き出して、スッキリさせた気持ちで、走っていく。

　――よし、これで、モヤモヤを吹き飛ばすことができ、受験に臨める。