12月24日。冷たい空気がピリッと肌を刺すようで、木々の枝先にはうっすらと雪が積もり始めていた。ちらちらと舞い降りる雪は、風に流されてゆっくりと踊りながら地面に落ちる。道端や屋根の上に静かに積もる雪は、街を白く染めていく。人々は手袋に包んだ手を擦り合わせ、マフラーに顔を埋めて歩いているが、そんな寒さの中でもどこか温かさが漂う。遠くから聞こえるクリスマスソングが、雪と共に降り注ぐように耳に届き、街灯に照らされた雪の結晶が淡く光を反射して輝いていた。
「優月、誕生日おめでとう!」
クラッカーの音と優月の誕生日を祝う賑やかな声が部屋に響く。
「ありがとう!」
二階で、優月の誕生日パーティーが開かれている。優月の親友の桃那、陽菜乃、同盟を結んでいる悠都、遅れてやってきた優月の親の由帆と優弥が、優月の誕生日を祝っている。
「優月ちゃん、今日、貸し切りできなくてごめんね」
クリスマスで稼ぎ時だから、お店を閉めるわけにはいかないし、私の誕生日なんかで、貸し切りだなんて大げさだ。
「謝らないで、守くん。ごちそう用意してくれてありがとう」
「どういたしまして! 皆じゃんじゃん食べて」
「ありがとうございます!」
陽菜乃、桃那が弾けるような笑顔で伝える。
守が階段を降りていく音を確認して二人は、守くん、かっこいい! と推しのアイドルを間近で見たファンのようにはしゃいでいる。
「あれ、あの男は?」
優弥が、優月と悠都に聞く。
「優弥くんは、あの男と言い方はダメよ。廉介くんが可哀想じゃない」
「えっ⁉ いつの間に、あのお…」
あの男と言おうとした優弥の唇に、由帆は人差し指を当て、背筋がピンとなる笑みを浮かべる。
「今日は、職員会議あるみたい」
優月が、説明する。
「優月の誕生日なのに」
優弥が地面にボールを投げつけるかのように言う。
「お父さん」「優弥くん」
由帆と優月は、優弥に冷たい視線を送る。その姿を見て、悠都は「さすが親子だ、似ている」と小さく呟く。「確かに」と桃那、陽菜乃が賛成する。
「ごめんって、二人してそんな顔しないの」
優弥が二人の機嫌を取りなおそうとする。
「終わったら来るって言ってたから」
優月が、とどめをさす。
誰かが階段を登ってくる音がする。一人じゃなくて、二人の足音がする。無意識のうちに、側耳を立てていると、廉介と汐里が現れる。
「おかえり!」
「満島先生!」
「優月ちゃん、誕生日おめでとう!」
「塾で会った時に、渡そうと思ったんだけど、今日、高岡先生が優月ちゃんの誕生日パーティーに誘ってくれたので、良かったら」
高くて、なかなか手に出せなかった可愛い、着心地の良いあのパジャマだ。袋の上だけど、触り心地が良いのが、一目散に分かってしまう。上は、薄ピンクのチャック付きの長袖で、ナイトキャップを被った可愛いクマさんの刺繍がなされていて、下はグレート白のリボン柄が散りばめられた薄ピンクのショートパンツだ。
「可愛い! ありがとうございます」
「どういたしまして! 喜んでくれてよかった」
汐里は心を撫でおろし、廉介、そして悠都に視線を送る。三時から始まった誕生日会が七時半に終わり、片づけをしていたら、八時半過ぎになっていた。
「今日、楽しかったな」
「うん、まだお腹いっぱいだし、誕生日祝ってもらえることがこんなに幸せなんだなって改めて気づかされた」
「これ、誕生日プレゼント。二人になった時に渡そうと思ったんだ」
「えっ⁉ ありがとう! 開けていい?」
「うん。もちろん」
ブランドものの縦型のショルダーバックだ。茶色を基調としたバッグでコーディネートしやすい。
「可愛い! 合わせやすいし、センスいい!」
「実はさ…満島先生にも選ぶの付き合ってもらったんだ」
だから、この前、悠都くんに買い物付き合ってもらった時、満島先生と廉くんを見かけたんだ。
「そうだったんだ」
「あと、クリスマスプレゼント」
ICカードケースだ。ちょうど破れてしまって、新しいの欲しくて、この前も買おうか悩んでいたところだった。
「ICカード入れるケースがボロボロになっていたから」
いつの間に⁉ よく見ているな…廉くん。
「そろそろ買い替えなきゃと思っていたんだ」
「私も実は、廉くんにクリスマスプレゼント渡したくて」
えっ⁉ と言葉を漏らし、目を大きく見開く。「あ、ありがと」と戸惑いながら、受け取り、心を躍らせながら、紙袋から小さめの箱を出し、リボンを解き、開くと…
「ネクタイピン!」
廉介は、目を大きくし、優月に視線を向ける。
「使えるものがいいかなって…廉くん、職業柄、スーツよく着ているし、その方がいいかなって」
「でも、これ高かったんじゃ…」
どう答えようか悩んだ挙句、微かに頷くことにした。そんな優月を見て、視線を手元のネクタイピンに落とし、再び優月の目を見て、口元を綻ばせる。
「ありがとう。大事にする」
「こちらこそ、ありがとう! 大切に使う」
「もう夜も遅いし、寝な」
「はーい。おやすみ」
「おやすみなさーい」
優月の後ろ姿をいつものように軽く手を振って見送った後、先ほど抱いた疑問について考える。このネクタイピンは、ブランドもので、値段を調べるような真似事はしないが、これはゆうに一万円超えるぞ。このブランドの店で一万円以下のものは見たことない。大学生の時、目が飛びでそうな衝撃を味わい、簡単に手が出せないほどだったから。お金は…どうした? お小遣いから出してくれたのなら、申し訳なさで心が痛い。バイト? ユヅの高校は、バイト禁止されているわけではないけど、ただでさえ、勉強で忙しいのに、このプレゼントを買うために、汗水垂らして、働いてくれたのだと思うと、これもまた申し訳なさで心が痛い。どちらにせよ、優月の気持ちは嬉しい、でも、申し訳なさが嬉しいの中に混じって、複雑だ。あぁ、考えるのは辞めにしよ。せっかくユヅが考えて、プレゼントしてくれたのだから。
とりあえずは、この箱に今のごちゃごちゃした感情を詰め込んでおこう。また、受験が終わってからでも聞くことにしよう。ネクタイピンは、ありがたく、次の仕事の日から、使わせてもらおう。
――ありがとう。最高のクリスマスプレゼントを。
「先、お風呂入って来るね!」
「いってらっしゃい」
「優月、誕生日おめでとう!」
クラッカーの音と優月の誕生日を祝う賑やかな声が部屋に響く。
「ありがとう!」
二階で、優月の誕生日パーティーが開かれている。優月の親友の桃那、陽菜乃、同盟を結んでいる悠都、遅れてやってきた優月の親の由帆と優弥が、優月の誕生日を祝っている。
「優月ちゃん、今日、貸し切りできなくてごめんね」
クリスマスで稼ぎ時だから、お店を閉めるわけにはいかないし、私の誕生日なんかで、貸し切りだなんて大げさだ。
「謝らないで、守くん。ごちそう用意してくれてありがとう」
「どういたしまして! 皆じゃんじゃん食べて」
「ありがとうございます!」
陽菜乃、桃那が弾けるような笑顔で伝える。
守が階段を降りていく音を確認して二人は、守くん、かっこいい! と推しのアイドルを間近で見たファンのようにはしゃいでいる。
「あれ、あの男は?」
優弥が、優月と悠都に聞く。
「優弥くんは、あの男と言い方はダメよ。廉介くんが可哀想じゃない」
「えっ⁉ いつの間に、あのお…」
あの男と言おうとした優弥の唇に、由帆は人差し指を当て、背筋がピンとなる笑みを浮かべる。
「今日は、職員会議あるみたい」
優月が、説明する。
「優月の誕生日なのに」
優弥が地面にボールを投げつけるかのように言う。
「お父さん」「優弥くん」
由帆と優月は、優弥に冷たい視線を送る。その姿を見て、悠都は「さすが親子だ、似ている」と小さく呟く。「確かに」と桃那、陽菜乃が賛成する。
「ごめんって、二人してそんな顔しないの」
優弥が二人の機嫌を取りなおそうとする。
「終わったら来るって言ってたから」
優月が、とどめをさす。
誰かが階段を登ってくる音がする。一人じゃなくて、二人の足音がする。無意識のうちに、側耳を立てていると、廉介と汐里が現れる。
「おかえり!」
「満島先生!」
「優月ちゃん、誕生日おめでとう!」
「塾で会った時に、渡そうと思ったんだけど、今日、高岡先生が優月ちゃんの誕生日パーティーに誘ってくれたので、良かったら」
高くて、なかなか手に出せなかった可愛い、着心地の良いあのパジャマだ。袋の上だけど、触り心地が良いのが、一目散に分かってしまう。上は、薄ピンクのチャック付きの長袖で、ナイトキャップを被った可愛いクマさんの刺繍がなされていて、下はグレート白のリボン柄が散りばめられた薄ピンクのショートパンツだ。
「可愛い! ありがとうございます」
「どういたしまして! 喜んでくれてよかった」
汐里は心を撫でおろし、廉介、そして悠都に視線を送る。三時から始まった誕生日会が七時半に終わり、片づけをしていたら、八時半過ぎになっていた。
「今日、楽しかったな」
「うん、まだお腹いっぱいだし、誕生日祝ってもらえることがこんなに幸せなんだなって改めて気づかされた」
「これ、誕生日プレゼント。二人になった時に渡そうと思ったんだ」
「えっ⁉ ありがとう! 開けていい?」
「うん。もちろん」
ブランドものの縦型のショルダーバックだ。茶色を基調としたバッグでコーディネートしやすい。
「可愛い! 合わせやすいし、センスいい!」
「実はさ…満島先生にも選ぶの付き合ってもらったんだ」
だから、この前、悠都くんに買い物付き合ってもらった時、満島先生と廉くんを見かけたんだ。
「そうだったんだ」
「あと、クリスマスプレゼント」
ICカードケースだ。ちょうど破れてしまって、新しいの欲しくて、この前も買おうか悩んでいたところだった。
「ICカード入れるケースがボロボロになっていたから」
いつの間に⁉ よく見ているな…廉くん。
「そろそろ買い替えなきゃと思っていたんだ」
「私も実は、廉くんにクリスマスプレゼント渡したくて」
えっ⁉ と言葉を漏らし、目を大きく見開く。「あ、ありがと」と戸惑いながら、受け取り、心を躍らせながら、紙袋から小さめの箱を出し、リボンを解き、開くと…
「ネクタイピン!」
廉介は、目を大きくし、優月に視線を向ける。
「使えるものがいいかなって…廉くん、職業柄、スーツよく着ているし、その方がいいかなって」
「でも、これ高かったんじゃ…」
どう答えようか悩んだ挙句、微かに頷くことにした。そんな優月を見て、視線を手元のネクタイピンに落とし、再び優月の目を見て、口元を綻ばせる。
「ありがとう。大事にする」
「こちらこそ、ありがとう! 大切に使う」
「もう夜も遅いし、寝な」
「はーい。おやすみ」
「おやすみなさーい」
優月の後ろ姿をいつものように軽く手を振って見送った後、先ほど抱いた疑問について考える。このネクタイピンは、ブランドもので、値段を調べるような真似事はしないが、これはゆうに一万円超えるぞ。このブランドの店で一万円以下のものは見たことない。大学生の時、目が飛びでそうな衝撃を味わい、簡単に手が出せないほどだったから。お金は…どうした? お小遣いから出してくれたのなら、申し訳なさで心が痛い。バイト? ユヅの高校は、バイト禁止されているわけではないけど、ただでさえ、勉強で忙しいのに、このプレゼントを買うために、汗水垂らして、働いてくれたのだと思うと、これもまた申し訳なさで心が痛い。どちらにせよ、優月の気持ちは嬉しい、でも、申し訳なさが嬉しいの中に混じって、複雑だ。あぁ、考えるのは辞めにしよ。せっかくユヅが考えて、プレゼントしてくれたのだから。
とりあえずは、この箱に今のごちゃごちゃした感情を詰め込んでおこう。また、受験が終わってからでも聞くことにしよう。ネクタイピンは、ありがたく、次の仕事の日から、使わせてもらおう。
――ありがとう。最高のクリスマスプレゼントを。
「先、お風呂入って来るね!」
「いってらっしゃい」