授業が終わり、背伸びをしながら、自習室にいる優月の様子を見に行くと、優月が怪しげな身長の高い男に壁に追いやられている。
「何かご用でしょうか」
廉介は、怪しげな男の前で、優月を庇うように立つ。バチバチと火花が散る音が、優月の耳に響く。すぐさま、優月は、廉介の腕を叩く。
「お、お父さんなの…」
初めて会う人なら、必ず一瞬身構えてしまうだろう。髪型は短めのスポーツカットで、黒髪は少し無造作に整えられている。どこかワイルドな印象を強める彼の顔と髪の毛が六兆滴。そして、長身と常に身に着けた黒いサングラス、無口な風貌からは、どこか近寄りがたい、ヤバそうな空気が漂っている。
「えっ」
廉介は、目を丸くする。
「優月ちゃんのお父様、お久しぶりです」
驚いていると、奥から、月島がやって来る。サングラスを外し、「娘がお世話になっております」と挨拶をしている。
見た目の風貌とは裏腹に、つぶらな優しそうな瞳をしている。ユヅの目は、お父さんに似ている。
そして、簡単に挨拶が終わると再び、サングラスを装着し、廉介の方をまるでナイフを向けるかのように見ている。サングラスの奥の瞳が優しいのは分かったけど、グラスの黒さのせいで、分からず、廉介は顔には出していないが、内心、怖さで頭が真っ白になりつつある。
「すみません」
怪しい人認定したことを謝る。下から上へと嘗め回すように見るだけで、何も言わずに、優弥は、月島に連れられ、面談室へと言った。
「大丈夫? びっくりしたよね」
優月が廉介を見上げる。
「うん。守と梨乃ちゃんの情報で、ある程度はこんな人なのか、想像していたけど…」
まるで、想像が卓袱台返しされたかのような衝撃だった。じゃあ、ユヅのお母さんは、どういう人なんだろう。好奇心となぜか恐怖が、胸の中で駆けずり回る。
勝手にヤバいやつに絡まれていると勘違いしてしまった。でも、あの風貌は誰だって…
だが、人を見た目で判断するのは、良くない。
「急にごめんな、優月。優月を驚かしたかったんだ! 月島先生にも挨拶したかったし」
「びっくりした。連絡してほしかった」
「ごめん、ごめん」
優弥は、手を合わせて謝る。
「娘がお世話になっております」
廉介は、優弥の顔を見て、頭を下げる。
「おぉ」
メンチ切られている? 俺のこと見えているよね。
「お母さんは、どうしたの?」
「守っちと梨乃ちゃんのお店、先に行ってるって」
守っち? どんな手を使って…でも、守は相手の懐に入るの上手いからな……。
「久しぶりに会えるの楽しみだな」
「由帆ちゃんも、優月に会えるの楽しみにしているよ」
「大丈夫だよ、お母さん優しいから…」
優月は、背伸びをして廉介に、優弥に聞こえないように囁く。
「ただいま」
三人同時にドア前に立つ。
「おかえり!」
「守っち、おひさー」
俺の前と守の前とでは、声が
「優弥さん、お久しぶりです」
守と優弥は再会のハグを交わす。
「優月、久しぶり!」
「お母さん!」
再会のハグをする二人を見て、廉介は顔を綻ばせる。
「あら、もしかして、あなたが、噂の先生の高岡廉介さんですか?」
「はい、初めまして。娘さんには大変お世話になっております。高岡廉介です」
「初めまして。優月の母の由帆です」
やや丸みを帯びた柔らかな顔立ちで、目元は涼しげで、微笑むときにはその目がさらに優しく輝く。髪の毛は鎖骨ぐらいの長さで、ナチュラルなストレートヘア。誰から見ても穏やかで優しそうな雰囲気を纏っている。この前の梨乃の言葉で、少し身構えていたけど、穏やかな人そうだ。優月の持つ雰囲気は、恐らくお母さん似なんだろうな……
「大変だったわね」
俺の話を、相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれて、この言葉を投げかけられた瞬間、心が毛布をかけられたかのように温かくなった。ユヅの人の話を傾聴する姿勢は、お母さんに似たのかなと思った。
「そのせいで、優月さんに怪我させてしまって。申し訳ございませんでした」
「無事、治ったんだから、良いわよ。梨乃から、優月が階段から突き落とされて、怪我したって聞いたときは驚いた。優弥くん何か、形相変えて、すぐ優月の元へ飛んで来ようとしたもん。でも、優弥くんの気持ち分からなくもない。翌日、大事なプレゼン控えていかなかったら、飛んでいくの止めなかったんだけどね」
「すみませんでした」
再び、机に頭をぶつける勢いで謝罪する。
「まぁ、優月がテレビ電話で、来なくていいからと優弥くんを制したから、来なかったんだけど、まとまった休みが早く取れたから、予定より、一日早く飛行機のチケット取ってサプライズで来ちゃった」
「そうだったんですね」
「でも、優月が元気そうで良かった。前より、なんか表情が豊かになった気がする。少し、会わなかっただけで、こんなに表情筋が鍛えられているとは」
由帆は優月の頬を両手で揺さぶる。それに対し、「辞めてよ、お母さん」と目を細めて言う。「ごめんご」と由帆は謝る。
なんて仲の良い家族なんだと廉介は、心の中で思っていた。
「優月、こっち来て」
「はーい」
優月は、呼ばれると、優弥の座っているお座敷へと向かう。
「まぁ、優月ちゃんも廉介も色々あったからな」
「ちょ、守、そんな顔で色々って言ったら、由帆さんが勘違いしてしまうじゃないか」
「まぁ、もし、大切な我が子が傷つくことがあったら、まぁ…」
全て言葉にしないのが、逆に怖い。梨乃ちゃんと由帆さんが顔を見合わせて、姉妹でしか分からないやり取りをしている。
視線の先に奥のお座敷でごはんを食べている優月と優弥がいる。優弥が優月を質問攻めしているようだ。優月が、少し困った表情を浮かべ、どうやって抜け出そうか悩んでいる。
「優弥くん、そろそろ優月を解放してあげな」
由帆は、そう言うと視線を横にいる廉介に向けて、ウィンクをする。
「ありがと」
優月は、通りすがりに、由帆に感謝する。
「うん。お風呂入って、温かくして寝るんだよ」
「はーい」
「何かご用でしょうか」
廉介は、怪しげな男の前で、優月を庇うように立つ。バチバチと火花が散る音が、優月の耳に響く。すぐさま、優月は、廉介の腕を叩く。
「お、お父さんなの…」
初めて会う人なら、必ず一瞬身構えてしまうだろう。髪型は短めのスポーツカットで、黒髪は少し無造作に整えられている。どこかワイルドな印象を強める彼の顔と髪の毛が六兆滴。そして、長身と常に身に着けた黒いサングラス、無口な風貌からは、どこか近寄りがたい、ヤバそうな空気が漂っている。
「えっ」
廉介は、目を丸くする。
「優月ちゃんのお父様、お久しぶりです」
驚いていると、奥から、月島がやって来る。サングラスを外し、「娘がお世話になっております」と挨拶をしている。
見た目の風貌とは裏腹に、つぶらな優しそうな瞳をしている。ユヅの目は、お父さんに似ている。
そして、簡単に挨拶が終わると再び、サングラスを装着し、廉介の方をまるでナイフを向けるかのように見ている。サングラスの奥の瞳が優しいのは分かったけど、グラスの黒さのせいで、分からず、廉介は顔には出していないが、内心、怖さで頭が真っ白になりつつある。
「すみません」
怪しい人認定したことを謝る。下から上へと嘗め回すように見るだけで、何も言わずに、優弥は、月島に連れられ、面談室へと言った。
「大丈夫? びっくりしたよね」
優月が廉介を見上げる。
「うん。守と梨乃ちゃんの情報で、ある程度はこんな人なのか、想像していたけど…」
まるで、想像が卓袱台返しされたかのような衝撃だった。じゃあ、ユヅのお母さんは、どういう人なんだろう。好奇心となぜか恐怖が、胸の中で駆けずり回る。
勝手にヤバいやつに絡まれていると勘違いしてしまった。でも、あの風貌は誰だって…
だが、人を見た目で判断するのは、良くない。
「急にごめんな、優月。優月を驚かしたかったんだ! 月島先生にも挨拶したかったし」
「びっくりした。連絡してほしかった」
「ごめん、ごめん」
優弥は、手を合わせて謝る。
「娘がお世話になっております」
廉介は、優弥の顔を見て、頭を下げる。
「おぉ」
メンチ切られている? 俺のこと見えているよね。
「お母さんは、どうしたの?」
「守っちと梨乃ちゃんのお店、先に行ってるって」
守っち? どんな手を使って…でも、守は相手の懐に入るの上手いからな……。
「久しぶりに会えるの楽しみだな」
「由帆ちゃんも、優月に会えるの楽しみにしているよ」
「大丈夫だよ、お母さん優しいから…」
優月は、背伸びをして廉介に、優弥に聞こえないように囁く。
「ただいま」
三人同時にドア前に立つ。
「おかえり!」
「守っち、おひさー」
俺の前と守の前とでは、声が
「優弥さん、お久しぶりです」
守と優弥は再会のハグを交わす。
「優月、久しぶり!」
「お母さん!」
再会のハグをする二人を見て、廉介は顔を綻ばせる。
「あら、もしかして、あなたが、噂の先生の高岡廉介さんですか?」
「はい、初めまして。娘さんには大変お世話になっております。高岡廉介です」
「初めまして。優月の母の由帆です」
やや丸みを帯びた柔らかな顔立ちで、目元は涼しげで、微笑むときにはその目がさらに優しく輝く。髪の毛は鎖骨ぐらいの長さで、ナチュラルなストレートヘア。誰から見ても穏やかで優しそうな雰囲気を纏っている。この前の梨乃の言葉で、少し身構えていたけど、穏やかな人そうだ。優月の持つ雰囲気は、恐らくお母さん似なんだろうな……
「大変だったわね」
俺の話を、相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれて、この言葉を投げかけられた瞬間、心が毛布をかけられたかのように温かくなった。ユヅの人の話を傾聴する姿勢は、お母さんに似たのかなと思った。
「そのせいで、優月さんに怪我させてしまって。申し訳ございませんでした」
「無事、治ったんだから、良いわよ。梨乃から、優月が階段から突き落とされて、怪我したって聞いたときは驚いた。優弥くん何か、形相変えて、すぐ優月の元へ飛んで来ようとしたもん。でも、優弥くんの気持ち分からなくもない。翌日、大事なプレゼン控えていかなかったら、飛んでいくの止めなかったんだけどね」
「すみませんでした」
再び、机に頭をぶつける勢いで謝罪する。
「まぁ、優月がテレビ電話で、来なくていいからと優弥くんを制したから、来なかったんだけど、まとまった休みが早く取れたから、予定より、一日早く飛行機のチケット取ってサプライズで来ちゃった」
「そうだったんですね」
「でも、優月が元気そうで良かった。前より、なんか表情が豊かになった気がする。少し、会わなかっただけで、こんなに表情筋が鍛えられているとは」
由帆は優月の頬を両手で揺さぶる。それに対し、「辞めてよ、お母さん」と目を細めて言う。「ごめんご」と由帆は謝る。
なんて仲の良い家族なんだと廉介は、心の中で思っていた。
「優月、こっち来て」
「はーい」
優月は、呼ばれると、優弥の座っているお座敷へと向かう。
「まぁ、優月ちゃんも廉介も色々あったからな」
「ちょ、守、そんな顔で色々って言ったら、由帆さんが勘違いしてしまうじゃないか」
「まぁ、もし、大切な我が子が傷つくことがあったら、まぁ…」
全て言葉にしないのが、逆に怖い。梨乃ちゃんと由帆さんが顔を見合わせて、姉妹でしか分からないやり取りをしている。
視線の先に奥のお座敷でごはんを食べている優月と優弥がいる。優弥が優月を質問攻めしているようだ。優月が、少し困った表情を浮かべ、どうやって抜け出そうか悩んでいる。
「優弥くん、そろそろ優月を解放してあげな」
由帆は、そう言うと視線を横にいる廉介に向けて、ウィンクをする。
「ありがと」
優月は、通りすがりに、由帆に感謝する。
「うん。お風呂入って、温かくして寝るんだよ」
「はーい」