いつの間にか寝てしまっていた。今は、十四時か。家帰って、仕事に行く準備しなきゃな。本当は、ユヅの目が覚めるまでいてあげたいのにごめんな。手を離そうとしたとき、握っていた手が動いた。
廉介は、目を見開き、優月の顔に視線を向ける。すると、優月の目が少しずつ開いていく。夢ではないよな、現実だよなと右頬を右手で抓る。ちゃんと痛い。
「おはよう。廉くん」
いつもより弱々しい声だけど、いつもみたいに廉介の顔を見て、頬を緩ませる。
「ユヅ、ごめん」
目を覚ました優月を見ると色んな感情が溢れ出し、目頭が熱くなり、涙が留まることなく零れ落ち、ぐちゃぐちゃになる。
「謝らないで」
優月は、先ほどより芯がある声で廉介の手を握る。廉介は、左手で涙を拭い、顔をあげ、首を横に振る。
「謝らせてほしい。ずっと謝りたかったんだ。あの日、必死に練習頑張っていたのに、スタメンになれなくて俺が上の空状態でユズと散歩していたせいで、ユズを死なせてしまった。俺がもっと早く気づいていたらユズともっと一緒に過ごせていたのに。ユズは空の上で、俺のこと恨んでいるのかなって思いながら今まで生きてきた。生まれ変わって会いに来てくれたのに、また、俺のせいで、ユヅを危険な目に晒してしまった。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
優月は廉介が握っている右手に力を込める。
「私、廉くんにまた出会えて嬉しい。私、廉くんのこと、全然恨んでいないよ。むしろ、廉くんのこと守ることが出来て良かった、廉くん、廉くん家族と出会えて良かったと思い、あの日、幸せな気持ちのまま目を閉じた。犬の時からずっと思っていたんだ。来世は、人間として廉くんに会いたいなと思った。そしたら、神様が願い叶えてくれた。こうしてまた巡り合えたの奇跡だと思う。だって、人間に生まれ変わっても、大好きな飼い主に出会うことが出来るとは限らないじゃん。もし、出会ったとしても、気づかないまま通り過ぎていたかもしれない」
「ユヅ」
「寝ている間、夢を見たんだ。あの日、犬生に幕を降ろしてから人間に生まれ変わる前のこと。来世への審判を待っている動物たちが列をなしていた。来世は何になりたいか希望を聞かれるのだけど、自分の順番が来た時、今度は人間として生まれ変わって大好きな飼い主に出会いたいって神様に伝えたら、その願いが受諾され、来世への扉へと案内されるまで、天国で他のワンちゃんや猫ちゃんたちと過ごしていたんだ。その時の記憶が流れてきた。あとね、来世への扉をくぐる前に扉の番人に言われたんだ。『来世に行ったと同時に前世の記憶に鍵がかけられる。鍵は来世のどこかにあるだろう。見つかったら、それは幸運の持ち主』と……」
優月は、深呼吸をして、続ける。
「私、廉くんに出会ってから、前世の犬として過ごした廉くんとの記憶が少しずつ鮮明になっていた。会うまでは、私の前世が何だったのか気にしたことなかった。友達の占いの付き添いで行った時に、占い師さんに前世犬だった、前世の時の飼い主さんに再会するだろうと言われ、まさか……思ったけど、塾の新しい先生高岡先生に出会って、何だか初めて会った気がしないと思ったんだ。まさか、一緒に暮らし始めるとは思わなかったけど」
「うん」
「廉くんがタコパの買い出しの帰り道に出会ったチワワ見て、ユズって呟いたのをきっかけに、記憶の扉がカチャッと開く音がした。最初は信じられなかった。この記憶は空想上の物ではないのかなと思った、思いこもうとした。でも、鮮明に記憶が溢れてくる。目の前にいる人が大好きな飼い主の廉くんだと知って嬉しかった、でも打ち明けたら、何言ってんのという目で見られるかもしれない。せっかく出会えたのに、もう出会うことができなくなるかもしれないと怖かった。だから、最初は打ち明けずに我慢しようと思った。でも、恐怖、嬉しさ、複雑な気持ちで胸が締め付けられた。やがては、我慢するのがしんどくなって、思わず打ち明けて出て行ってしまった」
「そうだったんだ」
「廉くんを困らせてしまった。でも、廉くんは私の言葉を信じてくれた。迎えに来てくれた日、最初は避けてしまったけど、本当は嬉しかったんだ。私、生まれ変わる前、廉くんに出会えたとしても、廉くんには大切なものがいっぱいできて、私のことなんかすっかり忘れているのかなと思っていた。でも、廉くんはユズのこと覚えてくれていた。それが、何より嬉しかった。人間になってこんなにも長く一緒にいられるとは思わなかったから、私は満足している。だから、私、廉くんに出会えて本当に幸せなんだ。あの日、廉くんを助けたから、またこうして出会えて、面と向かって思いを伝えることができている。あの時はワンワンしか言えなかったから。だから、面と向かって言葉で伝えられるの嬉しい」
「うん」
「だから、私は後悔していない」
「ユヅ」
「時間が許す限り、廉くんがいてもいいよと言ってくれる限り、私は廉くんとこれからも一緒にいたいです」
「もちろん」
「うん。ありがと」
喋りすぎた。今まで溜め込んでいた思いをここぞとばかりに伝えてしまったせいで、眠気が。
「ユヅ、ユヅ‼」
優月が急に意識を失い、廉介の肩に倒れる。スピ―、スゥーという気持ちよさそうな寝息で、廉介は心配から安堵に変わる。
この名前をつけてくれたお母さんとお父さんにも感謝しなきゃな。ユヅキとユズ、微妙に違うけど、音は一緒だし、キが付いているけど、この名前だったからこそ、廉くんの声に気づけた。前世の記憶を開けることができた。そして、あの頃の想いを伝え、あっ…まだ全部伝えきれていない。
廉介は、目を見開き、優月の顔に視線を向ける。すると、優月の目が少しずつ開いていく。夢ではないよな、現実だよなと右頬を右手で抓る。ちゃんと痛い。
「おはよう。廉くん」
いつもより弱々しい声だけど、いつもみたいに廉介の顔を見て、頬を緩ませる。
「ユヅ、ごめん」
目を覚ました優月を見ると色んな感情が溢れ出し、目頭が熱くなり、涙が留まることなく零れ落ち、ぐちゃぐちゃになる。
「謝らないで」
優月は、先ほどより芯がある声で廉介の手を握る。廉介は、左手で涙を拭い、顔をあげ、首を横に振る。
「謝らせてほしい。ずっと謝りたかったんだ。あの日、必死に練習頑張っていたのに、スタメンになれなくて俺が上の空状態でユズと散歩していたせいで、ユズを死なせてしまった。俺がもっと早く気づいていたらユズともっと一緒に過ごせていたのに。ユズは空の上で、俺のこと恨んでいるのかなって思いながら今まで生きてきた。生まれ変わって会いに来てくれたのに、また、俺のせいで、ユヅを危険な目に晒してしまった。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
優月は廉介が握っている右手に力を込める。
「私、廉くんにまた出会えて嬉しい。私、廉くんのこと、全然恨んでいないよ。むしろ、廉くんのこと守ることが出来て良かった、廉くん、廉くん家族と出会えて良かったと思い、あの日、幸せな気持ちのまま目を閉じた。犬の時からずっと思っていたんだ。来世は、人間として廉くんに会いたいなと思った。そしたら、神様が願い叶えてくれた。こうしてまた巡り合えたの奇跡だと思う。だって、人間に生まれ変わっても、大好きな飼い主に出会うことが出来るとは限らないじゃん。もし、出会ったとしても、気づかないまま通り過ぎていたかもしれない」
「ユヅ」
「寝ている間、夢を見たんだ。あの日、犬生に幕を降ろしてから人間に生まれ変わる前のこと。来世への審判を待っている動物たちが列をなしていた。来世は何になりたいか希望を聞かれるのだけど、自分の順番が来た時、今度は人間として生まれ変わって大好きな飼い主に出会いたいって神様に伝えたら、その願いが受諾され、来世への扉へと案内されるまで、天国で他のワンちゃんや猫ちゃんたちと過ごしていたんだ。その時の記憶が流れてきた。あとね、来世への扉をくぐる前に扉の番人に言われたんだ。『来世に行ったと同時に前世の記憶に鍵がかけられる。鍵は来世のどこかにあるだろう。見つかったら、それは幸運の持ち主』と……」
優月は、深呼吸をして、続ける。
「私、廉くんに出会ってから、前世の犬として過ごした廉くんとの記憶が少しずつ鮮明になっていた。会うまでは、私の前世が何だったのか気にしたことなかった。友達の占いの付き添いで行った時に、占い師さんに前世犬だった、前世の時の飼い主さんに再会するだろうと言われ、まさか……思ったけど、塾の新しい先生高岡先生に出会って、何だか初めて会った気がしないと思ったんだ。まさか、一緒に暮らし始めるとは思わなかったけど」
「うん」
「廉くんがタコパの買い出しの帰り道に出会ったチワワ見て、ユズって呟いたのをきっかけに、記憶の扉がカチャッと開く音がした。最初は信じられなかった。この記憶は空想上の物ではないのかなと思った、思いこもうとした。でも、鮮明に記憶が溢れてくる。目の前にいる人が大好きな飼い主の廉くんだと知って嬉しかった、でも打ち明けたら、何言ってんのという目で見られるかもしれない。せっかく出会えたのに、もう出会うことができなくなるかもしれないと怖かった。だから、最初は打ち明けずに我慢しようと思った。でも、恐怖、嬉しさ、複雑な気持ちで胸が締め付けられた。やがては、我慢するのがしんどくなって、思わず打ち明けて出て行ってしまった」
「そうだったんだ」
「廉くんを困らせてしまった。でも、廉くんは私の言葉を信じてくれた。迎えに来てくれた日、最初は避けてしまったけど、本当は嬉しかったんだ。私、生まれ変わる前、廉くんに出会えたとしても、廉くんには大切なものがいっぱいできて、私のことなんかすっかり忘れているのかなと思っていた。でも、廉くんはユズのこと覚えてくれていた。それが、何より嬉しかった。人間になってこんなにも長く一緒にいられるとは思わなかったから、私は満足している。だから、私、廉くんに出会えて本当に幸せなんだ。あの日、廉くんを助けたから、またこうして出会えて、面と向かって思いを伝えることができている。あの時はワンワンしか言えなかったから。だから、面と向かって言葉で伝えられるの嬉しい」
「うん」
「だから、私は後悔していない」
「ユヅ」
「時間が許す限り、廉くんがいてもいいよと言ってくれる限り、私は廉くんとこれからも一緒にいたいです」
「もちろん」
「うん。ありがと」
喋りすぎた。今まで溜め込んでいた思いをここぞとばかりに伝えてしまったせいで、眠気が。
「ユヅ、ユヅ‼」
優月が急に意識を失い、廉介の肩に倒れる。スピ―、スゥーという気持ちよさそうな寝息で、廉介は心配から安堵に変わる。
この名前をつけてくれたお母さんとお父さんにも感謝しなきゃな。ユヅキとユズ、微妙に違うけど、音は一緒だし、キが付いているけど、この名前だったからこそ、廉くんの声に気づけた。前世の記憶を開けることができた。そして、あの頃の想いを伝え、あっ…まだ全部伝えきれていない。