放課後、玄関で、悠都は、優月を待ち伏せしていた、教室で話しかけようと思ったのだが、姿が見当たらず、優月の友達の陽菜乃と桃那に聞いたところ、優月は、今さっき職員室に行ったと言われ玄関で待つことにした。
あの日、振られた日以来…面と向かって話していないから、変な緊張が心の中をうろついている。前みたいに、フランクに話せばいいんだ。恋をする前に戻れば、あっ、戻ってしまったら、塾に入る前の関係に戻ってしまう。偶々、塾を探している時に、優月が、今の塾には行っているのを見かけて、入ることにした。学校では、あまり男子と仲良くするタイプには見えなかったから、塾だったら、もしかしたら、近づけると思い、入塾した。その判断は、間違っていなかった。実際、成績も伸びたし、こうやって、名前でも呼べるほど仲良くなれたし、いい先生にも出会えたし、そして、前世の記憶も…そうこうしていると、優月が階段から降りてきた。
「優月」
呼び止めなきゃ、気づかず行ってしまうと思ったから、勇気を胸に掲げ声にする。
「あっ」
気まずそうな表情を浮かべ、おどおどしてから、優月は俯く。
「よっ、お疲れ! これから一緒に塾行かない?」
前みたいに、好きになる前には戻りたくないけど、告白する前みたいな関係なら……。唇を噛み、頬を緩める。
「あっ、えっと…うん」
一緒に塾に向かうことになったが、何の話をすればいいのか分からない。すると、優月が俺の顔を見つめて、頭を下げる。
「この間は期待に沿えなくてごめんなさい」
優月の記者会見並に深々した謝罪に、悠都は目を大きくし、唾を飲み込み、言葉を早急に滑らす。
「いいよ。優月は他に好きな人がいるんだろ」
とっくに分かっていた。優月の目には違う人が映っていることを。でも、自分の気持ちに蓋をしたままだとやがて爆発してしまう。外に出してから、優月が叩き割ってくれた方が楽になると思った。その考えは間違っていなかったし、選んでよかった。今は割れたガラスを片づけしているところだ。あっけなく、俺の恋心は玉砕してしまったが、俺は優月のことを応援したいという気持ちに変わりはない。
「え⁉」
「顔に書いてある」
手を顔に当てて確認をする優月を見て、思わず悠都は吹き出してしまう。
「応援する。だから、前みたいに話そ! 気まずいのは嫌だから。友達として、これからも仲良くしてほしい」
「ありがとう」
優月は、嬉しさで頬を緩める。
「あのさ、話変わるんだけど、優月は前世とか気になるタイプ?」
悠都の唐突な質問に優月は目を丸くする。
「急にどうしたの?」
「いやぁ、何となく」
「気にしたことなかったんだけど、陽菜乃と桃那の付き添いで行った占いで、前世犬って言われたんだ。初めは信じていなかった。嘘だろうと思っていた。でも、少しずつ前の飼い主といた記憶が蘇ってきて」
「えっ!」
眼球が飛び出そうなほどの衝撃に、悠都は陥る。
「こんな話、信じられないよね……あぁ、ごめん、忘れて」
あたふたしている優月が、悠都の視界に入る。
「いや、信じる」
悠都の真剣な眼差しと固く結ばれた言葉に、優月は、目をぱちぱちさせる。
「えっ?」
「俺も、前世の記憶が急に浮かんできて…そしたら、犬だった」
「えっ! 悠都くんも犬⁉」
「うん。優月の前世の飼い主ってどんな人だったの?」
「クールでサッカーが好きな男の子。でも、『ユズ』って呼んでくれる時の声が温かくて、心地よかった。学校から帰って来た時、『ただいま』より先に、私の名前を呼ぶんだよ。それが何だか愛おしくて、嬉しかった」
「まさか、前世も同じ名前?」
「あぁ。えっとね、音は一緒なんだけど、前世は柑橘のユズと同じ、今はツに濁点のだし、キも付いているから若干違う」
「でも、字面は違うけど、呼んだら三分の二、一緒じゃん。それって何だか、運命…だね」
「うん。悠都くんは?」
「よく一緒にいたのが泣き虫で負けず嫌いな女の子。その子が生まれる前から、飼われていたから、妹みたいな存在だった。病気で、女の子が小学一年生か二年生の時に亡くなってしまったから、そこまでの記憶しかないんだけど、温かな家庭だった」
「そうだったんだね」
優月の顔の表情が、雨雲が空にかかり始める。
「実はさ…前世の飼い主、満島先生なんだ」
悠都は、包み欠かさず優月に打ち明ける。
「えっ?」
先ほどの湿った顔から、鳩が豆鉄砲を食ったような表情に変わる。
「うん」
悠都は、頭を縦に振る。
「えーっ!」
優月は目を見開き、驚きのあまり叫んでいる。何事かと、歩行者の注目を浴びてしまう。
「優月、静かに」
人差し指を口に当てて、ゆっくり頷く。
「ごめん」
萎んだ風船のようになる。
「俺も驚いた」
「実は、私の前世の飼い主、高岡先生なんだ」
緩急がない平坦な坂を歩くかのように、いたって普通の声で、悠都の告白に釣られて、優月も、前世の飼い主を告白する。
「え! 待って、ちょ」
分かりやすく慌てている悠都。壊れたロボットのようになる。
「悠都くん」
「ごめん、ごめん。こんな偶然あるの?」
そして、優月と悠都は前世犬同盟を結成した。
あの日、振られた日以来…面と向かって話していないから、変な緊張が心の中をうろついている。前みたいに、フランクに話せばいいんだ。恋をする前に戻れば、あっ、戻ってしまったら、塾に入る前の関係に戻ってしまう。偶々、塾を探している時に、優月が、今の塾には行っているのを見かけて、入ることにした。学校では、あまり男子と仲良くするタイプには見えなかったから、塾だったら、もしかしたら、近づけると思い、入塾した。その判断は、間違っていなかった。実際、成績も伸びたし、こうやって、名前でも呼べるほど仲良くなれたし、いい先生にも出会えたし、そして、前世の記憶も…そうこうしていると、優月が階段から降りてきた。
「優月」
呼び止めなきゃ、気づかず行ってしまうと思ったから、勇気を胸に掲げ声にする。
「あっ」
気まずそうな表情を浮かべ、おどおどしてから、優月は俯く。
「よっ、お疲れ! これから一緒に塾行かない?」
前みたいに、好きになる前には戻りたくないけど、告白する前みたいな関係なら……。唇を噛み、頬を緩める。
「あっ、えっと…うん」
一緒に塾に向かうことになったが、何の話をすればいいのか分からない。すると、優月が俺の顔を見つめて、頭を下げる。
「この間は期待に沿えなくてごめんなさい」
優月の記者会見並に深々した謝罪に、悠都は目を大きくし、唾を飲み込み、言葉を早急に滑らす。
「いいよ。優月は他に好きな人がいるんだろ」
とっくに分かっていた。優月の目には違う人が映っていることを。でも、自分の気持ちに蓋をしたままだとやがて爆発してしまう。外に出してから、優月が叩き割ってくれた方が楽になると思った。その考えは間違っていなかったし、選んでよかった。今は割れたガラスを片づけしているところだ。あっけなく、俺の恋心は玉砕してしまったが、俺は優月のことを応援したいという気持ちに変わりはない。
「え⁉」
「顔に書いてある」
手を顔に当てて確認をする優月を見て、思わず悠都は吹き出してしまう。
「応援する。だから、前みたいに話そ! 気まずいのは嫌だから。友達として、これからも仲良くしてほしい」
「ありがとう」
優月は、嬉しさで頬を緩める。
「あのさ、話変わるんだけど、優月は前世とか気になるタイプ?」
悠都の唐突な質問に優月は目を丸くする。
「急にどうしたの?」
「いやぁ、何となく」
「気にしたことなかったんだけど、陽菜乃と桃那の付き添いで行った占いで、前世犬って言われたんだ。初めは信じていなかった。嘘だろうと思っていた。でも、少しずつ前の飼い主といた記憶が蘇ってきて」
「えっ!」
眼球が飛び出そうなほどの衝撃に、悠都は陥る。
「こんな話、信じられないよね……あぁ、ごめん、忘れて」
あたふたしている優月が、悠都の視界に入る。
「いや、信じる」
悠都の真剣な眼差しと固く結ばれた言葉に、優月は、目をぱちぱちさせる。
「えっ?」
「俺も、前世の記憶が急に浮かんできて…そしたら、犬だった」
「えっ! 悠都くんも犬⁉」
「うん。優月の前世の飼い主ってどんな人だったの?」
「クールでサッカーが好きな男の子。でも、『ユズ』って呼んでくれる時の声が温かくて、心地よかった。学校から帰って来た時、『ただいま』より先に、私の名前を呼ぶんだよ。それが何だか愛おしくて、嬉しかった」
「まさか、前世も同じ名前?」
「あぁ。えっとね、音は一緒なんだけど、前世は柑橘のユズと同じ、今はツに濁点のだし、キも付いているから若干違う」
「でも、字面は違うけど、呼んだら三分の二、一緒じゃん。それって何だか、運命…だね」
「うん。悠都くんは?」
「よく一緒にいたのが泣き虫で負けず嫌いな女の子。その子が生まれる前から、飼われていたから、妹みたいな存在だった。病気で、女の子が小学一年生か二年生の時に亡くなってしまったから、そこまでの記憶しかないんだけど、温かな家庭だった」
「そうだったんだね」
優月の顔の表情が、雨雲が空にかかり始める。
「実はさ…前世の飼い主、満島先生なんだ」
悠都は、包み欠かさず優月に打ち明ける。
「えっ?」
先ほどの湿った顔から、鳩が豆鉄砲を食ったような表情に変わる。
「うん」
悠都は、頭を縦に振る。
「えーっ!」
優月は目を見開き、驚きのあまり叫んでいる。何事かと、歩行者の注目を浴びてしまう。
「優月、静かに」
人差し指を口に当てて、ゆっくり頷く。
「ごめん」
萎んだ風船のようになる。
「俺も驚いた」
「実は、私の前世の飼い主、高岡先生なんだ」
緩急がない平坦な坂を歩くかのように、いたって普通の声で、悠都の告白に釣られて、優月も、前世の飼い主を告白する。
「え! 待って、ちょ」
分かりやすく慌てている悠都。壊れたロボットのようになる。
「悠都くん」
「ごめん、ごめん。こんな偶然あるの?」
そして、優月と悠都は前世犬同盟を結成した。