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目を濡らした汐里の姿に悠都はすぐに気づく。
授業が始まるまで、まだ時間があるが、いつも使う教室が空いているみたいだったから、月島先生に許可を貰って、寝不足だったから、いつもの教室で仮眠を取ることにして、教室のドアを開けようとした瞬間、すすり泣きの声が耳に入ってくる。こっそりのぞくと、壁に寄り掛かり泣いている。なぜだか、胸が焦げていくかのように、痛い。この場から離れて、気づかぬ振り…いや、出来ない。
「先生、大丈夫ですか?」
「だいじょ…」
汐里はとっさに逆方向を向き、顔を隠す。
悠都くん…まだ、授業まで時間あるのに、なんで…タイミング…が悪すぎるよ。
言葉が詰まって、上手く喉から出てこない…最悪、泣きすぎて鼻水も。あぁ、今にも膝から崩れ落ちそうな気分。
「大丈夫じゃないですよね」
「うん、振られたんだ」
心の中に留めておこうと思ったのに、なぜだか、口から出てしまった。
「そうだったんですね。俺も振られました」
滑り台から滑って来たかのような調子に、
「そう……えっ?」
汐里の目が点になる。
「泣きたいときは泣いてもいいんですよ」
悠都は、汐里に慰めの言葉をかける。すると、悠都に抱きつき、咽び泣いている。
「あんな誰かを好きになるの久しぶりだったから」
汐里の悲しみに溺れた声が二人しかいない教室に響く。無意識に、汐里の頭に手を置く悠都。そんな自分を見て、何やっているんだと一瞬驚くが手を離そうとは思わず、撫で始める。
この光景なんだか見覚えがある。すると、自分が歩んできた人生が逆再生され、突如画面がブラックアウトする。再びついたと思えば、横に幼稚園の制服を着た女の子が涙で顔を濡らしている。
俺、こんなに毛がふさふさだったけ。自分の体に視線を移す。
白、黒、え、待って。何、これ⁉
俺は、泣いている女の子の頭に毛で覆われている手を置く。
「レオン」
女の子は目元に浮かぶ涙を拭い、口元を綻ばせる。
「汐里、ごはんできたわよ」
「分かった」
女の子は、俺を強く抱きしめて、「ありがと」と零す。気づいたら、女の子の頬を舐めていた。
「ふふ、くすぐったい。ありがと、レオン」
これは、前世の記憶? 俺、前世…犬?
え、じゃあ…まさか。
目の前にいる満島先生が、俺の前世の飼い主ってこと? え、そんなことある?
「レオン」
記憶と現実の境目が分からなくなり、いつの間にか汐里は、彼の名前を呼んでいた。呼んでしまってから、やってしまったとおでこに手をやる。ここは現在で、レオンはとっくの昔にお別れした。
「なんか昔飼っていた犬に話聞いて慰めてもらったのを思い出した。悠都くんも大変なのにありがとう。ごめんね」
なぜ、この子の前で、レオンのこと思い出したんだろう。あの日から、思い出すことなんてなかったのに……。この子は、レオンと無関係なんだから。
「あっ、今の、忘れて」
汐里はそう言葉にすると、あの時と変わらぬ笑顔を、悠都に見せる。
昔は、レオンに慰めてもらっていたけど、もうあの子はいない。自分でどうにかしなきゃ。自分が散らかしてしまったものは、自分で片づけなきゃ。誰かに頼るなんて出来ない。
「いえ」
どういう反応をしていいのか分からず素っ気なくなってしまった。
「授業、始めようか」
正直言うと、状況がイマイチ呑み込めず、今日の授業は上の空だった。え、俺、前世、犬? 妄想? でも、先生、レオンって言っていたし、俺の頭の中に流れてきたのも、レオンとしての記憶で、目の前にしおりという名前の女の子がいた。
目を濡らした汐里の姿に悠都はすぐに気づく。
授業が始まるまで、まだ時間があるが、いつも使う教室が空いているみたいだったから、月島先生に許可を貰って、寝不足だったから、いつもの教室で仮眠を取ることにして、教室のドアを開けようとした瞬間、すすり泣きの声が耳に入ってくる。こっそりのぞくと、壁に寄り掛かり泣いている。なぜだか、胸が焦げていくかのように、痛い。この場から離れて、気づかぬ振り…いや、出来ない。
「先生、大丈夫ですか?」
「だいじょ…」
汐里はとっさに逆方向を向き、顔を隠す。
悠都くん…まだ、授業まで時間あるのに、なんで…タイミング…が悪すぎるよ。
言葉が詰まって、上手く喉から出てこない…最悪、泣きすぎて鼻水も。あぁ、今にも膝から崩れ落ちそうな気分。
「大丈夫じゃないですよね」
「うん、振られたんだ」
心の中に留めておこうと思ったのに、なぜだか、口から出てしまった。
「そうだったんですね。俺も振られました」
滑り台から滑って来たかのような調子に、
「そう……えっ?」
汐里の目が点になる。
「泣きたいときは泣いてもいいんですよ」
悠都は、汐里に慰めの言葉をかける。すると、悠都に抱きつき、咽び泣いている。
「あんな誰かを好きになるの久しぶりだったから」
汐里の悲しみに溺れた声が二人しかいない教室に響く。無意識に、汐里の頭に手を置く悠都。そんな自分を見て、何やっているんだと一瞬驚くが手を離そうとは思わず、撫で始める。
この光景なんだか見覚えがある。すると、自分が歩んできた人生が逆再生され、突如画面がブラックアウトする。再びついたと思えば、横に幼稚園の制服を着た女の子が涙で顔を濡らしている。
俺、こんなに毛がふさふさだったけ。自分の体に視線を移す。
白、黒、え、待って。何、これ⁉
俺は、泣いている女の子の頭に毛で覆われている手を置く。
「レオン」
女の子は目元に浮かぶ涙を拭い、口元を綻ばせる。
「汐里、ごはんできたわよ」
「分かった」
女の子は、俺を強く抱きしめて、「ありがと」と零す。気づいたら、女の子の頬を舐めていた。
「ふふ、くすぐったい。ありがと、レオン」
これは、前世の記憶? 俺、前世…犬?
え、じゃあ…まさか。
目の前にいる満島先生が、俺の前世の飼い主ってこと? え、そんなことある?
「レオン」
記憶と現実の境目が分からなくなり、いつの間にか汐里は、彼の名前を呼んでいた。呼んでしまってから、やってしまったとおでこに手をやる。ここは現在で、レオンはとっくの昔にお別れした。
「なんか昔飼っていた犬に話聞いて慰めてもらったのを思い出した。悠都くんも大変なのにありがとう。ごめんね」
なぜ、この子の前で、レオンのこと思い出したんだろう。あの日から、思い出すことなんてなかったのに……。この子は、レオンと無関係なんだから。
「あっ、今の、忘れて」
汐里はそう言葉にすると、あの時と変わらぬ笑顔を、悠都に見せる。
昔は、レオンに慰めてもらっていたけど、もうあの子はいない。自分でどうにかしなきゃ。自分が散らかしてしまったものは、自分で片づけなきゃ。誰かに頼るなんて出来ない。
「いえ」
どういう反応をしていいのか分からず素っ気なくなってしまった。
「授業、始めようか」
正直言うと、状況がイマイチ呑み込めず、今日の授業は上の空だった。え、俺、前世、犬? 妄想? でも、先生、レオンって言っていたし、俺の頭の中に流れてきたのも、レオンとしての記憶で、目の前にしおりという名前の女の子がいた。