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「先生、おーい、満島先生」
 問題を解き終わり、丸付けまで終わった悠都は、汐里に何度も呼びかけている。違う世界観に入ってしまった汐里の目の前に手を振りかざし、戻ってくるように呼び掛ける。
「あ、ごめん、ごめん」
 パチンっと手を合わせて、申し訳なさそうな表情が顔からにじみ出ている。
「丸付け終わりました」
「どうだった?」
 悠都は、問題の出来について言おうとしたが、汐里の目を二、三秒見つめて、やっぱり気になるから、その前に少し寄り道をしようと決める。
「先生、どうしたんです? 上の空状態になっていましたけど。まさか…恋したとか?」
 よく、恋愛ドラマで、目にするシチュエーションだ。「恋は盲目」っていうやつだ。
「そんなんじゃないよ」
 首が飛んでいきそうなくらいの否定を汐里は見せる。あ、図星だ。
「でも、先生顔赤くなっていますよ。相手は、高岡先生とか」
 悠都が汐里の顔をじーっと見つめて呟く。すると、分かりやすいほどに顔が赤く染め上げられていく。これで勘弁してあげてもいいのに、悠都のドSないたずら心が発動してしまう。
「えっ? 図星ですか」
「……そうなのかもしれない」
 赤らめた頬を隠しながら、汐里は照れが混じった声で答える。
「まぁ、頑張ってください」
 恋する人に無理だとか勝ち目がないとかその人の気持ちとか何も知らずに決めつけて言葉を投げつける人は嫌いだ。だから、恋する先生の顔を見て、応援したいなと純粋に思ってしまった。
「えっ」
 思いもしない言葉だったのか、先生は目をパチパチさせて驚いているようだった。
「自分の気持ちはちゃんと伝えた方がいいです。我慢しすぎると辛くなるだけですから。もし、ダメだったら、俺が慰めてあげますから」