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「同棲していた彼女に振られたって気の毒だね。廉介」
 ビールをゴクゴクと飲み、プハァーという声と共に、哀れみの視線を送るのは坂木守。彼は居酒屋を経営しており、今日は休日で、高校時代の同級生の結婚式帰りに、近くの居酒屋で飲んでいるところだ。ちなみに同棲していた彼女に振られたというのが、守の高校時代からの友達である俺、高岡廉介だ。もう少し詳細に説明すると、浮気現場を目撃してしまい、振られた。
 色々と気持ちを整理整頓したかったのに、昨日、守からの電話で、今日、高校時代の友達である直治の結婚式で、なんも予定がなかったし、休みだったから参加に〇をつけたことを忘れていたことに気づいた。気づかされた。
 誰かの不幸の上に存在する誰かの幸せ。自分のものではない誰かの幸せなオーラが重く圧し掛かっている。今日行った結婚式で、さらに追い込みをかけられている。このままだと押しつぶされそうだ。
 俺は、個別指導と集団指導の両方を行っている塾で、正社員の塾講師として働いている。
 勤務している塾の研修で、一週間、大阪に行っていて、家を留守にしていた。