「あっ、お疲れ様です」
職場に着いて教室に入ると、汐里が机の上で授業の準備をしていた。
「お疲れ様です。先週の金曜日は変なこと聞いてしまいすみませんでした」
「いえ」
「いろいろとあったんですね」
憐みの眼差しを廉介に向ける汐里。
「あはは」
廉介は苦笑いをしてこの場を乗り切ろうとする。そりゃあ、この三、四カ月で、婚約相手に浮気され、振られ、住む場所を別の男に侵食され、追い出された。そして、守のお店の二階に住むことになったが、そこにはすでに住民がいた、しかも女子高校生で新しく担当することになった塾の生徒。そして、その子が驚くべきことに前世の飼い犬のユズだった。人間としての名前は、嶋田優月。ユズとユヅキで名前が似ている。何とも運命的だ。その子と右往曲折あったが、今こうして一つ屋根の下で楽しく暮らせている。目まぐるしい日々で、一時はメンタルが鉄の鉄球でへこみ、飛ばされそうになったが、今は何とか元に戻ってくれた。でも、同じ職場の新しく入った若い女性に、塾以外の場所で一緒に見られてしまい、そして、その先生が受け持つ教え子に、ユヅをハグした場面を見られてしまい、メンタルが再びへこんでしまった。
「高岡先生、大丈夫ですか」
汐里が「高岡先生」と何度も呼びかけているのに、返事がないもんだから、深刻味がかった心配そうな表情をする。
「あぁ、すみません。大丈夫です」
「心配しないでください。大丈夫です。誰にも言いませんから。私、口固いので」
汐里のまっすぐな目を見て、廉介は汐里の言葉を信じることにした。
「あ、ありがとうございます」
「あの日、高校時代の親友の結婚式の帰りで、一緒に行った友達のオススメであの居酒屋さんでご飯食べることになったのですが、お手頃で、沢山のお料理を楽しむことが出来て、満足感が高かったのでまた伺ってもよろしいですか」
汐里の話を聞いて、だからフォーマルな恰好をしていたのだと納得した。スーツ姿の満島先生しか見たことがなかったから、声をかけてきた麗しい女性が、満島先生だと変換するのに少し時間がかかってしまった。
「もちろんです。守喜ぶと思います」
「良かった。あの、おひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」
何だろうと心構える。
「高岡先生って、付き合っている人とかいらっしゃらないのですか」
いつの間にか浮気され、振られたばかりで、今はそういう恋愛とかはどうでもいいと正直思っている。
「いないです」
ちょうど、授業の五分前のチャイムが鳴り響く。
「もうすぐ授業、始まっちゃいますね」
「あ、そうですね、じゃあ」
研修期間がすでに終わり、別々に分かれて授業を行うため、お互い会釈をして、自分が受け持つ生徒、廉介は優月、汐里は悠都が待つ教室へと向かう。
最後のコマの授業が終わり、背伸びをして、背中のコリをほぐしていると、悠都と優月が自習室で一緒に勉強をしているのが視界に入る。
帰ろうと声をかけたいのに、かけれる雰囲気ではない。
「悠都くんと優月ちゃん仲良いですね」
急に声をかけられて、背筋が、ビクッと反応する。振り向くと、同じく授業を終えた満島先生が立っていた。
「あっ、お疲れ様です」
「お疲れ様です。あの二人、付き合っちゃえばいいのに」
汐里が心の声を漏らす。確かにお似合いだと思う。二人の様子を眺めていると、誰かのスマホが振動する音が耳に入る。
「あ、迎え来たみたい」
悠都が問題集を閉じ、スマホを手に取り耳にすると、「分かった」と言って、電話を切り、荷物をカバンに詰め始める。
「じゃあ」
「うん、また明日!」
「悠都くん、お疲れ!」
汐里が玄関口にいる悠都に手を振りながら声をかける。
「お疲れ様です」
悠都は軽く頭を下げると、塾を後にした。廉介は、座っている優月の元に近寄る。
「俺達もそろそろ帰るか」
「はい」
「ちょっと待ってて。荷物取って来るから」
「うん」
優月は、カバンの中から英語の単語帳を出して、廉介が来るまで、復習をして待っていた。
職場に着いて教室に入ると、汐里が机の上で授業の準備をしていた。
「お疲れ様です。先週の金曜日は変なこと聞いてしまいすみませんでした」
「いえ」
「いろいろとあったんですね」
憐みの眼差しを廉介に向ける汐里。
「あはは」
廉介は苦笑いをしてこの場を乗り切ろうとする。そりゃあ、この三、四カ月で、婚約相手に浮気され、振られ、住む場所を別の男に侵食され、追い出された。そして、守のお店の二階に住むことになったが、そこにはすでに住民がいた、しかも女子高校生で新しく担当することになった塾の生徒。そして、その子が驚くべきことに前世の飼い犬のユズだった。人間としての名前は、嶋田優月。ユズとユヅキで名前が似ている。何とも運命的だ。その子と右往曲折あったが、今こうして一つ屋根の下で楽しく暮らせている。目まぐるしい日々で、一時はメンタルが鉄の鉄球でへこみ、飛ばされそうになったが、今は何とか元に戻ってくれた。でも、同じ職場の新しく入った若い女性に、塾以外の場所で一緒に見られてしまい、そして、その先生が受け持つ教え子に、ユヅをハグした場面を見られてしまい、メンタルが再びへこんでしまった。
「高岡先生、大丈夫ですか」
汐里が「高岡先生」と何度も呼びかけているのに、返事がないもんだから、深刻味がかった心配そうな表情をする。
「あぁ、すみません。大丈夫です」
「心配しないでください。大丈夫です。誰にも言いませんから。私、口固いので」
汐里のまっすぐな目を見て、廉介は汐里の言葉を信じることにした。
「あ、ありがとうございます」
「あの日、高校時代の親友の結婚式の帰りで、一緒に行った友達のオススメであの居酒屋さんでご飯食べることになったのですが、お手頃で、沢山のお料理を楽しむことが出来て、満足感が高かったのでまた伺ってもよろしいですか」
汐里の話を聞いて、だからフォーマルな恰好をしていたのだと納得した。スーツ姿の満島先生しか見たことがなかったから、声をかけてきた麗しい女性が、満島先生だと変換するのに少し時間がかかってしまった。
「もちろんです。守喜ぶと思います」
「良かった。あの、おひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」
何だろうと心構える。
「高岡先生って、付き合っている人とかいらっしゃらないのですか」
いつの間にか浮気され、振られたばかりで、今はそういう恋愛とかはどうでもいいと正直思っている。
「いないです」
ちょうど、授業の五分前のチャイムが鳴り響く。
「もうすぐ授業、始まっちゃいますね」
「あ、そうですね、じゃあ」
研修期間がすでに終わり、別々に分かれて授業を行うため、お互い会釈をして、自分が受け持つ生徒、廉介は優月、汐里は悠都が待つ教室へと向かう。
最後のコマの授業が終わり、背伸びをして、背中のコリをほぐしていると、悠都と優月が自習室で一緒に勉強をしているのが視界に入る。
帰ろうと声をかけたいのに、かけれる雰囲気ではない。
「悠都くんと優月ちゃん仲良いですね」
急に声をかけられて、背筋が、ビクッと反応する。振り向くと、同じく授業を終えた満島先生が立っていた。
「あっ、お疲れ様です」
「お疲れ様です。あの二人、付き合っちゃえばいいのに」
汐里が心の声を漏らす。確かにお似合いだと思う。二人の様子を眺めていると、誰かのスマホが振動する音が耳に入る。
「あ、迎え来たみたい」
悠都が問題集を閉じ、スマホを手に取り耳にすると、「分かった」と言って、電話を切り、荷物をカバンに詰め始める。
「じゃあ」
「うん、また明日!」
「悠都くん、お疲れ!」
汐里が玄関口にいる悠都に手を振りながら声をかける。
「お疲れ様です」
悠都は軽く頭を下げると、塾を後にした。廉介は、座っている優月の元に近寄る。
「俺達もそろそろ帰るか」
「はい」
「ちょっと待ってて。荷物取って来るから」
「うん」
優月は、カバンの中から英語の単語帳を出して、廉介が来るまで、復習をして待っていた。