授業が始まるまで、15分。
「今日から新しく入る子がいるんだ。ユヅと同じ学校だから、知っているかもしれない」
 板書をしながら、廉介は優月に伝える。
「そうなんですね」
 机の上で手を組みながら、廉介が板書をするのを眺めている優月。
「満島先生の指導もあるし、何回かは一緒に授業することになると思う」
 板書が終わり、黒板から優月の方に向きを変える。ペンのキャップを閉めるカチッという音が響く。
「うん、分かりました」
 スライド式のドアの滑らか音が二人の間に流れていた空気を断ち切る。そして、視線がドアに注がれる。スポーツバックを肩にかけ、ズボンから制服のシャツがはみ出た格好をしている。端正な顔立ちに、黒髪の短髪姿で、汗を額に纏わせて登場。
「あ、え! 石橋くん」
 優月の瞳孔が突如大きくなり、一瞬、固まる。
「おぉ」
 男の子は優月を見て端的に頷く。
 ドアが再び開く。授業道具を手に抱えた汐里が入ってくる。
「悠都くんと優月ちゃん、同じ学校って聞いていたけど、まさか知り合い?」
 悠都と優月に汐里が質問を投げかける。
「同じクラスです」
 二人の声が重なる。顔を見合わせて、言葉を探す二人。そんな二人に汐里は助け舟を差す。
「そうなんだね!」
 廉介も顔の表情を出さずに、静かに驚く。
「あっ。こちら、優月ちゃんを教えている高岡先生」
「初めまして、高岡廉介です」
 颯爽と現れた彼は、ユヅと同じクラス。二人の空気に入るタイミングを見失っていたら、後からやってきた満島先生がナイスパスをくれた。
 廉介は悠都に自己紹介をする。
「石橋悠都です」
 それに答えて悠都も自分の名前を口にする。上から下まで品定めするかのような熱い視線、熱いというよりは、体が氷のように硬直するかのような冷たい視線が注がれる。
「今日は合同で授業したいと思います」
 授業の始まりを告げるチャイムが鳴り終えると、廉介は手を叩き授業を始めた。

「二人とも、お疲れさまでした」
「悠都くん、来週は、今日の授業でやったチャプター5の部分の確認テストをします。宿題もチェックするので、忘れずにね!」
 汐里が悠都に伝える。悠都は真面目にノートにメモをしている。
「分かりました」
「じゃあ、お疲れ様。気を付けて帰ってね」
 悠都は「はい」と言って、頭を軽く下げる。そして、優月に声をかける。
「嶋田はもう帰るの?」
「塾の自習室で、勉強して帰る」
「そうなんだ。じゃあ。また明日。学校で」
 優月は、手を軽く上げて、優月に挨拶をしてそのまま帰る。
「うん! じゃあね」
 手を止めて、優月は頷き、手を振る。