塾が終わり、優月と廉介は、一緒に帰路についていた。
「満島先生、生徒から人気出そう」
「町田先生が産休、育休を取っていたり、大学生のアルバイトの子が卒業や就活を機に辞めたりで、個人指導部が今、人手不足だから、満島先生は、突如現れた救世主」
心なしか嬉しそうで、声がいつもより高い気がする。
「確かに、春休みあたりから、人手足りなくて、月島先生、忙しそうだった」
「この塾って、結構、採用されるの、ハードル高いからさ。応募は沢山来てても、教えれるレベルじゃないと、不採用になってしまう。学歴、いい大学行ってても、テストに合格されないとうちの塾長は採用しない。今までに、そのパターンを何度も見てきてる」
廉介は、月島の伝手でこの塾に正社員として入社したが、数学、英語、現代文のテストで、それぞれ八十五パーセントの正答率を出さないといけず、この壁を乗り越えることが出来ず、挫折する人が多かった。入社してからも、勉強し直したため、大学受験に使った教科は、何とか教えることができるようになった。
「そうなんですね」
「あのさ、ユヅ?」
「うん?」
正面から廉介に視線を向ける。
「もし、個別指導部に人が入ってきても、俺はこれからもユヅに勉強教えたい」
「もちろんです。もう、先生変えて欲しいとか言いませんから、安心してください」
いたずらな笑みを浮かべる。
「ユヅ」
廉介は右手で優月の頭をワシャワシャと撫でる。
「ちょっと、廉くん」
優月は目を細めて、睨みつけるが、すぐに笑顔へと変わる。
「ごめん、ごめん」
廉介は謝る。
少しでも長くいたいから。家でも、外でも。高校生が終わったら、一緒にいれなくなる。それに廉くんに大切な人ができるかもしれない。それなら、卒業するまでの時間、廉くんとの思い出を蓋しきれないほどいっぱいにしてからがいい。
グゥーッという音が夜風のヒューッと共に耳の中に届く。
「あ、ごめん」
廉介が満月が顔を出している夜空を見て呟く。
「お腹空いたね。今日、トウモロコシの炊き込みご飯作るって、守くん言ってた」
「絶対美味しいやつじゃん」
「うん、美味しいやつ。トウモロコシ丸々入れて土鍋で炊いたやつ。炊き立ても美味しいけど、焼きおにぎりも香ばしさがいいアクセントになって美味しい」
グゥーっ。
今度は二人のお腹の音がハモリ、顔を見合わせて、思わず笑みが零れる。
「早く帰ろ! よし家まで競争しよ! よーいドン」
「ちょっと、ユズ。待って」
居酒屋花火の提灯が目に見えた瞬間、二人は五十メートルの距離を走る。
「ただいま」
勢いよく扉を優月が開ける。廉介は、微かに息切れをしながら、優月の後ろで壁に手をかける。トウモロコシの甘いにおいが鼻腔を突き抜ける。
「満島先生、生徒から人気出そう」
「町田先生が産休、育休を取っていたり、大学生のアルバイトの子が卒業や就活を機に辞めたりで、個人指導部が今、人手不足だから、満島先生は、突如現れた救世主」
心なしか嬉しそうで、声がいつもより高い気がする。
「確かに、春休みあたりから、人手足りなくて、月島先生、忙しそうだった」
「この塾って、結構、採用されるの、ハードル高いからさ。応募は沢山来てても、教えれるレベルじゃないと、不採用になってしまう。学歴、いい大学行ってても、テストに合格されないとうちの塾長は採用しない。今までに、そのパターンを何度も見てきてる」
廉介は、月島の伝手でこの塾に正社員として入社したが、数学、英語、現代文のテストで、それぞれ八十五パーセントの正答率を出さないといけず、この壁を乗り越えることが出来ず、挫折する人が多かった。入社してからも、勉強し直したため、大学受験に使った教科は、何とか教えることができるようになった。
「そうなんですね」
「あのさ、ユヅ?」
「うん?」
正面から廉介に視線を向ける。
「もし、個別指導部に人が入ってきても、俺はこれからもユヅに勉強教えたい」
「もちろんです。もう、先生変えて欲しいとか言いませんから、安心してください」
いたずらな笑みを浮かべる。
「ユヅ」
廉介は右手で優月の頭をワシャワシャと撫でる。
「ちょっと、廉くん」
優月は目を細めて、睨みつけるが、すぐに笑顔へと変わる。
「ごめん、ごめん」
廉介は謝る。
少しでも長くいたいから。家でも、外でも。高校生が終わったら、一緒にいれなくなる。それに廉くんに大切な人ができるかもしれない。それなら、卒業するまでの時間、廉くんとの思い出を蓋しきれないほどいっぱいにしてからがいい。
グゥーッという音が夜風のヒューッと共に耳の中に届く。
「あ、ごめん」
廉介が満月が顔を出している夜空を見て呟く。
「お腹空いたね。今日、トウモロコシの炊き込みご飯作るって、守くん言ってた」
「絶対美味しいやつじゃん」
「うん、美味しいやつ。トウモロコシ丸々入れて土鍋で炊いたやつ。炊き立ても美味しいけど、焼きおにぎりも香ばしさがいいアクセントになって美味しい」
グゥーっ。
今度は二人のお腹の音がハモリ、顔を見合わせて、思わず笑みが零れる。
「早く帰ろ! よし家まで競争しよ! よーいドン」
「ちょっと、ユズ。待って」
居酒屋花火の提灯が目に見えた瞬間、二人は五十メートルの距離を走る。
「ただいま」
勢いよく扉を優月が開ける。廉介は、微かに息切れをしながら、優月の後ろで壁に手をかける。トウモロコシの甘いにおいが鼻腔を突き抜ける。