「嶋田さん、大丈夫?」
 廉介の声が優月を現実に引き戻す。
 懐かしさが段々とこみ上げてくる。まさか再び出会えると思っていなかったから。目の前のこの人が、前世で私を大切にしてくれた飼い主だなんて。でも、前世であなたは私の飼い主でしたと言われたら、戸惑ってしまうだろう。え、何、言っているの? と思われるに違いない。頭では分かっているのに、心の奥底ではどうしても伝えたい衝動に駆られる。
 だから、ゴクンと気持ちを呑み込むしかないのだ。思い出の重みが胸にのしかかるが、それを表に出すわけにはいかない。今は、ただ目の前の現実を大切にしなければならない。「はい、大丈夫です。食べましょ!」
 無理にでも笑顔を作って、たこ焼きに手を伸ばす。廉介もそんな優月の様子を見て、安堵の表情を浮かべる。

 前世は犬だったけど、現世は人間で、つい最近まで、交わることもなかった赤の他人。この思いは、心の奥底に置いてある箱に入れて、箱が開かないようにしないと。