*
あれは、確か、日が強く照りつける真夏日だった。焼けるようなアスファルトの上に置かれた段ボールの中で、私は閉じ込められていた。段ボールの隙間から見える空は、青く澄んでいるのに、私の心は鉛のように重く、希望は風船のようにしぼんでいった。もう、生きる希望が、風船みたく空気が抜けていき、もうすぐ空っぽになりそうだった。
でも、眩い光が視界に入ってきた。五、六歳ぐらいの男の子とその子のお父さんが助けてくれた。私を飼っていた元家族は、引っ越しと飽きてしまったことを理由に私を捨てた。そんな場面にたまたま遭遇し、男の子は私の代わりに怒ってくれた。
「最低ですね。俺はあなたたちみたいな大人にはならない」
男の子は、静かに怒りを燃やし、拳を固くし、地響きするような声で言った。
「はぁ、知るかよ、ガキ。行こうぜ」
男の冷たい声が遠ざかる。厳ついサングラスをかけ、右手にたばこを持ち、左手で、目が痛くなるような蛍光ピンクのノースリーブワンピースを着て、ヒョウ柄の高級ブランドのバッグを持ち、深紅の唇が目立つ女の腰に手を回している男は地面に唾を吐いて、そそくさと逃げていく。彼ら姿が消えると、男の子は私の方にかがみ込み、お布団のように温かな手で頭を撫でてくれた。
「大丈夫だからね」
男の子の優しさが胸に染みた。暴言を吐かれても、泣くこともせず、私のことを優しくなでてくれた。瞳に映る君の姿は暗闇にさしこんだ一筋の光のように見えた。でも、体に力が入らない。もう、だめだ。
「お父さん、この子が危ない」
男の子は必死な形相をして、父親に助けを求める。
あぁ、もうだめかもしれない。初めて、温かいという感情を知り、涙が頬を伝い零れ落ちた。
生きているのが地獄で、早く終わってほしいとあんなに願っていたのに、この男の子に出会ったことで、揺らいでいる。
――まだ、生きたい。生きたいよ。死にたくないよ。
動物病院に連れていかれ、軽度の熱中症、栄養失調と診断された。点滴を打ってもらい、その後は目が覚めるまで、病院の待合室で、男の子の膝で眠っていた。男の子はずっと私のことを優しく撫でてくれていた。
「廉。どうする? この子」
父親は優しさに真剣味を帯びた声で尋ねた。
廉介は真剣に考える。
何でも簡単に物事を決めてはいけない。覚悟や責任感が欠けて中途半端なまま進めてしまうと自分だけではなく誰かに迷惑をかけたり、時には傷つけてしまう。生半可な気持ちだといつか身を滅ぼしかねない。分かっている。でも、俺は、この子を放っておけない。
廉介は唇を強く固く結んで答えた。
「家で飼いたい。この子のこと放っておけない」
廉介の瞳には覚悟と強い決心の炎が揺らめいていた。
「うん、そうか……母さんにちょっと聞いてみる」
電話をかけに、病院の外に出る廉介の父。その様子を不安げに遠くから見つめる廉介。「大丈夫だから」と優しい眼差しが注がれる。自分の手をこの子の掌の上に置く。
――離れたくない。一緒にいたい。
「母さん、飼ってもいいって」
その瞬間、照明がついたかのように、廉介の顔がパッと明るくなり、彼は歓喜の声を上げた。
「やったね」
私も彼の喜びを分かち合うように、尻尾を振りながら「ワン」と答えた。そして、私と君はハイタッチを交わした。嬉しさがとどまることなく溢れ出る。この子、そしてこの子の家族に癒しを与えれるように、お世話になるのだから少しでも役に立とうと心に決めた。居場所が見つかり安心のあまり、帰りの車の中でも家着いて用意してくれたベッドの上でも爆睡していた。
あれは、確か、日が強く照りつける真夏日だった。焼けるようなアスファルトの上に置かれた段ボールの中で、私は閉じ込められていた。段ボールの隙間から見える空は、青く澄んでいるのに、私の心は鉛のように重く、希望は風船のようにしぼんでいった。もう、生きる希望が、風船みたく空気が抜けていき、もうすぐ空っぽになりそうだった。
でも、眩い光が視界に入ってきた。五、六歳ぐらいの男の子とその子のお父さんが助けてくれた。私を飼っていた元家族は、引っ越しと飽きてしまったことを理由に私を捨てた。そんな場面にたまたま遭遇し、男の子は私の代わりに怒ってくれた。
「最低ですね。俺はあなたたちみたいな大人にはならない」
男の子は、静かに怒りを燃やし、拳を固くし、地響きするような声で言った。
「はぁ、知るかよ、ガキ。行こうぜ」
男の冷たい声が遠ざかる。厳ついサングラスをかけ、右手にたばこを持ち、左手で、目が痛くなるような蛍光ピンクのノースリーブワンピースを着て、ヒョウ柄の高級ブランドのバッグを持ち、深紅の唇が目立つ女の腰に手を回している男は地面に唾を吐いて、そそくさと逃げていく。彼ら姿が消えると、男の子は私の方にかがみ込み、お布団のように温かな手で頭を撫でてくれた。
「大丈夫だからね」
男の子の優しさが胸に染みた。暴言を吐かれても、泣くこともせず、私のことを優しくなでてくれた。瞳に映る君の姿は暗闇にさしこんだ一筋の光のように見えた。でも、体に力が入らない。もう、だめだ。
「お父さん、この子が危ない」
男の子は必死な形相をして、父親に助けを求める。
あぁ、もうだめかもしれない。初めて、温かいという感情を知り、涙が頬を伝い零れ落ちた。
生きているのが地獄で、早く終わってほしいとあんなに願っていたのに、この男の子に出会ったことで、揺らいでいる。
――まだ、生きたい。生きたいよ。死にたくないよ。
動物病院に連れていかれ、軽度の熱中症、栄養失調と診断された。点滴を打ってもらい、その後は目が覚めるまで、病院の待合室で、男の子の膝で眠っていた。男の子はずっと私のことを優しく撫でてくれていた。
「廉。どうする? この子」
父親は優しさに真剣味を帯びた声で尋ねた。
廉介は真剣に考える。
何でも簡単に物事を決めてはいけない。覚悟や責任感が欠けて中途半端なまま進めてしまうと自分だけではなく誰かに迷惑をかけたり、時には傷つけてしまう。生半可な気持ちだといつか身を滅ぼしかねない。分かっている。でも、俺は、この子を放っておけない。
廉介は唇を強く固く結んで答えた。
「家で飼いたい。この子のこと放っておけない」
廉介の瞳には覚悟と強い決心の炎が揺らめいていた。
「うん、そうか……母さんにちょっと聞いてみる」
電話をかけに、病院の外に出る廉介の父。その様子を不安げに遠くから見つめる廉介。「大丈夫だから」と優しい眼差しが注がれる。自分の手をこの子の掌の上に置く。
――離れたくない。一緒にいたい。
「母さん、飼ってもいいって」
その瞬間、照明がついたかのように、廉介の顔がパッと明るくなり、彼は歓喜の声を上げた。
「やったね」
私も彼の喜びを分かち合うように、尻尾を振りながら「ワン」と答えた。そして、私と君はハイタッチを交わした。嬉しさがとどまることなく溢れ出る。この子、そしてこの子の家族に癒しを与えれるように、お世話になるのだから少しでも役に立とうと心に決めた。居場所が見つかり安心のあまり、帰りの車の中でも家着いて用意してくれたベッドの上でも爆睡していた。