『矢野くん、あけましておめでとう』
「あ、あけまして、おめでとうございます」
『矢野くん、今年もよろしくね』
「え、あ……こちらこそ、よろしくお願いします」
雰囲気に飲まれて思わず正座をしたまま頭を下げた。
『今年はあまり矢野くんの可愛い姿見られなかったけど来年はもっと見れるといいな』
「えっ? なに言ってるんですか」
『だって今年は三回くらいじゃなかった? あ、違うか。去年は、だね。しかも一度は黙って一人で女装してたし』
「それは忘れてしまったというか……先輩、数まで覚えてるんですか?」
『そりゃあ当然だよ』
もしかして先輩、結構根に持つタイプ……?
『それと約束破ったんだから、罰執行しなきゃね』
「ええっ? 罰……?」
『うん、指切りして約束までしたんだから当然だよ。そういうわけで今年、一度は俺の言うこと聞いてね』
「……どういうわけなんですか」
ボソッと不満を呟くと、スマホの向こう側で先輩はクスッと笑った。
『じゃあそろそろ電話終わるね。矢野くんの蕎麦伸びちゃうし』
「え、あ……麺の心配してくれて、ありがとうございます」
『じゃあ矢野くん、新学期にまた会おうね』
「は、はい……ではまた」
耳元からスマホを離すと、通話終了と画面に出ていた。
先輩と話した時間は、十分にも満たない。普段は滅多に電話なんてしないし、基本生徒会の連絡はメッセージでのやりとりのみ。
おかげで電話は緊張するけど、いつもより近くに感じて、離れているところでも同じ時間を共有しているようで。
なんだかあっという間に過ぎ去って、少しだけ物足りなささえ感じてしまった。
「……なんだろう、これ」
先輩と話しているときは自然体な自分がいて、それに居心地がいい。
この気持ちは一体……
そんなことを考えながら、もくもくとあがる湯気に気づく。
「……あっ、そうだ、麺……!」
慌てて蕎麦をかき混ぜたあと、食べる。
それからは一人でテレビを見ながら歳を越したのだった──。