『まず一つ目は、矢野くんと仲良くなれたことかな。矢野くんが生徒会に加入しなければ多分こうやって仲良くなることもなかったし、矢野くんが女装するなんて知らなかっただろうし』
「や、それは知らないままでいてほしかったんですけどね……」

 半ばヤケクソに返事をすると、『あははっ』と先輩は笑った。

『矢野くんは嫌だろうけど、俺は矢野くんの秘密知れて嬉しかったよ』
「できれば今からでも記憶を消してもらえるとありがたいのですが……」
『それは無理かな。だって矢野くんのあの姿、まだ忘れられないし』

 優しい声色が耳に入り込むから、からかっているわけではないと知り恥ずかしくなる。

『矢野くんの秘密を俺だけが知ってるってなんか優越感』
「な、なんですかそれ……どうせそうやってからかう材料にしてるだけじゃないですか」
『なんで。からかってないよ。俺、本当のことしか言わないって前言ったじゃん。だから全部ほんとのこと。それを含めて矢野くんが好きだから』

 急に〝好き〟なんて単語が耳元に流れてくるから、意識せずにはいられなくなって、

「だ、だから、先輩はすぐそうやって……」
『矢野くんは聞いててうんざりするかもしれないけど、俺思ったことはちゃんと言葉にしたいから』
「うんざりはしませんけど……」

 ドキドキはする。だって、耳元で〝好き〟って言われたら誰だって意識するはずだ。

『さあ、今年も残り一分を切りました。それではみなさんでカウントダウンをいたしましょう!』

 テレビ画面に映し出される60秒という文字が、カウントされるたびに一秒ずつ減っていく。

『あ、カウントダウン始まったね』
「そ、そうですね」

 カップ麺にお湯を注いで、リビングに向かう。

『ほんとは矢野くんとちゃんとカウントダウンしたかったなぁ』
「え……?」

 ちゃんとってなんだ?

「あの、せんぱ──…」

 尋ねようと思った矢先、

『あと十秒だ』

 先輩がいきなりカウントダウンを始めるから、ちゃんとの意味は聞けそうになかった。その代わりにつられて数字を『三、二、一……』とカウントする。
 ゼロに達した瞬間、テレビ画面からはたくさんの大きな音か鳴り響き。