「先輩、どうかしたんですか?」
『いやー、今年もあと少しだなと思ったら誰かに電話したくなってさ。そしたら真っ先に矢野くんが頭に浮かんで電話しちゃった』
「えっ、俺……ですか?」
『うん、矢野くんの声聞きたくなって』
「なん──…」

 なんで俺が真っ先に浮かんだのか聞こうと思ったけれど、その瞬間告白をされたことを思い出して咄嗟に言葉を飲み込んだ。

『矢野くん今なにしてるの?』
「あ、えっと、俺は年越し用の蕎麦を……」
『えっ? 矢野くん料理できるの。すごいね』
「あ、じゃなくて、カップ麺のお湯を沸かしてるところです」
『なんだ。そうだったんだ。じゃあ今の俺のすごいって言葉返して』
「何でですか。嫌ですよ」

 そんなやりとりをしたあと、互いにフッと笑みが溢れる。
 顔を見て話しているわけじゃないのに、いつもと変わらず楽しいのはなぜだろう。相手が夏樹先輩だからかな。

『今年あと五分もないんだね』

 ちらっとテレビへ目を向けると、画面の右下にカウントダウンが表示されていた。

「ほんとですね。なんかこっちまで緊張してきます」
『そうだね。しかも今矢野くんと電話しながら年越せるってのが不思議な感じだね』
「たしかに、そうですね」

 離れてる場所にいるのに電話をしていると繋がれている気持ちになる。同じ時間、同じ感覚を共有できているようで、不思議と孤独ではなかった。

『矢野くん今年を振り返ってみてどうだった?』
「え、今年ですか? うーん、一言で言うのは難しいけど、なんていうかいい意味でも悪い意味でもいろいろあった一年だと思います」
『あ、その悪い意味って俺に女装見られちゃったってやつじゃない?』
「ちょ、先輩……! そんな大きな声で……っ」
『大丈夫大丈夫。部屋にいるし、聞こえないよ』
「そそそ、そうかもしれないですが……!」

 先輩ってばすぐ気が緩むと、そうやって大きな声で人前だろうが〝女装〟って言っちゃうから。

「せ、先輩……はどうだったんですか?」
『俺は、めちゃくちゃいい一年だったかな』
「め、めちゃくちゃですか……」