「……仕方ない。買いに行こ」

 料理をすることを諦めて、俺は軽く身支度をするとスマホと鍵と財布だけをポケットに入れて家を出た。
 近くのコンビニまで徒歩数分。そこでお目当ての蕎麦のカップ麺とジュースだけを買って店を出た。

 外は街灯やお店の明かりがあるおかげで夜道のわりには明るい。

 空を見上げると、丸い月がくっきりと輪郭を縁取っていた。
 息を吐くたびに白い息が空へと消える。冷たい空気を吸い込むと、肺がびっくりしてぎゅっとなる。

 家までの数分の間、外を歩くだけで身体は一気に冷え込んだ。

「ううっ……寒かった」

 家に帰りつき、早速お湯を沸かす。

 大晦日用の蕎麦のカップ麺を食べるために。

『今年もあと十分を切りましたね!』

 テレビから聞こえる声。アナウンサーがどこかの中継先で、鼻を真っ赤にしながらしゃべっている姿があった。

「あと数分で今年が終わるのかぁ……」

 学校生活に慣れるか不安で初めは緊張だらけの毎日だった。でも、鳥羽という似た類の友達もできて、ちょっと天然っぽい柳木もおもしろいし、生徒会に入って先輩たちとも仲良くなれたし。

 ……まあ生徒会に入ることは想定外だったけど。

 今思い返せば、あっという間の一年だったなぁ。

「いやでも、先輩に女装がバレたのが想定外だけど……」

 誰にもバレずに三年間を終えるつもりだったのに。先輩に女装を見られてから、たびたび女装しないのって言われるようになったし、あとは告白もされたし……早く返事をしないといけないんだけど。

 ──ピロリロリーン。

 リビングのテーブルに置いているスマホが鳴った。

 スマホ画面を確認すると、それは母さんからではなく。

「えっ……先輩?」

 夏樹先輩からの着信だった。

「な、なんでこんな時間に、ていうかなんの連絡だろう……いやいや、その前に電話!」

 しばらく画面を凝視したのち、俺は慌てて通話ボタンを押した。

「は、はいっ、もしもし」
『遅くにごめんね。寝てるところ起こしちゃったりした?』
「だ、大丈夫です。年越しそばを食べるという任務が残っていたので起きてました!」
『任務って……ふふ、そっか』

 耳元で先輩の柔らかい声が聞こえてきて、少しだけくすぐったい。