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 クリスマスもあっという間に終わり、もうすぐで今年が終わろうとしていた。
 リビングに飲み物を取りに行くと、母さんは誰かと電話をしているようだった。

「どうしたの?」
「それがねえ、由莉(ゆり)が風邪ひいて熱が出たって。しかも今、家になにもないって言うのよ。だから今から様子を見に行ってこようと思ってね」

 由莉とは、三つ離れた俺の姉だ。
 その姉が俺にたくさんの洋服をくれたわけなんだけど。

「姉さん、大丈夫なの?」
「うーん、まぁ熱だけみたいだし食べて薬飲んで寝たら良くなるでしょ」

 姉は今、大学生で都内に一人暮らしをしている。家から電車でさほど遠くはない。
 普段あまり家に帰ってこない姉さんとは、今年一度も会ってはいなかった。それだけ大学とバイトで忙しいのかもしれない。

「今から行ったら帰りの電車もうなくなるわねえ。かといって由莉を一人にしたままタクシーで帰るのも心配だし。今日は由莉の家に泊まろうかしら」

 時刻は、二十三時過ぎ。

 あと一時間もすれば今年が終わる。そうなれば、最終電車だって終わるわけで。

「あら、でも朝陽が一人になっちゃうわね。やっぱりタクシーで帰って来ようかしら」
「俺は大丈夫だから姉さんのそばにいてあげて」
「そう? でも……」
「ほんっとに大丈夫だから!」

 俺の言葉にようやく納得したのか、「じゃあそうしようかしら」と母さんは軽く身支度を整える。

「じゃあ戸締り気をつけるのよ」
「うん、分かった」
「夜、インターホン鳴っても出なくていいからね」
「うん、知ってる」
「あと──」

 母さんがまだ話しだしそうだったから、

「早く行かないと終電終わっちゃうよ」

 無理やり話を切ると、「あらいけない」と慌てた様子で家を出た。

 ……全く。これじゃあどっちが親で子か分からない。

 ひと段落ついて時計を見ると時刻は二十三時半。

 我が家では年越しそばを食べるのだが、今日は母さんがいない。材料は買ってあるだろうけど、今から作ってもきっと料理不得意な俺は間に合わない。最悪、怪我をするだろう。