元々、特に予定もなかったし……いや、夏樹先輩には遊びに行こうと誘われてはいたけれど、告白の返事を返せていない手前、一緒に遊ぶのもなんか違うし。
 だけど、みんなと過ごすなら話は別だ。

「矢野、まじかー!」

 ぱあっと顔を輝かせた武田先輩が俺の元へ走って来ると、「おまえってやつはいいやつだな〜!」と、頭をぐりぐりと撫で回される。

「ちょっと先輩、やめてください」
「いーじゃねえか。こういうときくらい撫でさせろ」

 俺がやめてくださいと何度お願いしたところで、武田先輩がやめてくれることはない。

「俺もべつにいいよ」

 そんな最中、夏樹先輩もそう言って。

「おっ、まじで?」

 武田先輩の意識が逸れて手が止まる。
 そのことに安堵したと同時に俺は武田先輩から距離を取る。

 それから次々と「俺も大丈夫です」と声が上がり、結局生徒会みんなで行くことになる。


 ***


 そして、フードコート店で腹ごしらえをしたあとに、みんなで向かった先はカラオケ店だった。

「よーし! 今日は思いっきり歌おうぜ!」

 仕切るのは当然、武田先輩だ。

 その姿を見て「元気だなぁ」と会長が呆れたように笑っていた。

「おまえらも次々と好きな歌入れろよー」

 後輩にカラオケ機器を手渡して、終始明るい武田先輩。よほど一人じゃないのが嬉しいのか、いつも以上に楽しそうだ。

 会長は、武田先輩に付き合う形でカラオケに来たわけだけど。

 ……あれ、でも会長って。

「あの、会長。用事はよかったんですか?」
「ん? 用事って?」
「あ、いや、この前。会長、クリスマスを一人で過ごすとは言ってないって武田先輩に……」
「ああ、あれね。武田のことからかってただけだよ」
「そうだったんですか?」
「うん」

 確かに会長は、武田先輩をからかっているときは楽しそうな感じがする。生き生きしてるっていうか、仲いいから信頼関係もあってのことなんだろうけれど。

「それにしてもクリスマスに生徒会みんなで集まるなんて、非リア充すぎますね」
「あー実はみんなには言ってないけど俺、付き合ってる子はいるんだ。共学校に知り合いがいるって言ったでしょ。あれ、彼女のこと」
「そ、そうだったんですか?」
「うん」

 なんだ、そっか。やっぱり会長に恋人いるんだ。そりゃあこれだけ勉強もできてスポーツも得意で、生徒たちや先生からの信頼も厚くてかっこよければモテるはずだ。
 ……でも、それならどうして今日……

「今日会わなくてよかったんですか?」
「ああ、それは大丈夫。元々、クリスマスに会う予定だったし、今日は空いてたから」
「あ、ああなるほど……」

 呆気に取られていると、武田先輩を見た会長は、「まだ武田には言ってないから秘密ね」と人差し指を立てて、クスッと笑った。