「……俺、男らしいとこありますか?」

 自分では気づかなくて先輩に尋ねると、「うん、あるよ」と俺の瞳を真っ直ぐ見据えて答えた。

「たとえば、体育祭でタケに言い返したところとか。ああ意外と負けず嫌いなんだなって思ったし、ちゃんと言いたいことは言葉で伝えてくれるし」

 先輩は、楽しそうに顔を緩ませながら話していく。

「矢野くんは、すごく先輩思いだし俺が冗談言っても突き放さないで笑ってくれるし、引き受けたことは最後までやり切るし、それにいつも優しいよね。あと、俺の告白だって適当に返そうと思えば返せるのに、ちゃんと考えてくれるところとか愛おしいって思うし。ほんとに可愛い後輩だよ」

 先輩の声はとても優しくて心地よくて、向けられる視線だって柔らかい。

「……あれ、でもそれ……」

 どこかで聞いたことあるような言葉。

 〝夏樹先輩は、後輩思いでたまに冗談言うけど実はすごく優しくて俺のことを否定しないし、むしろ受け止めてくれたっていうか。なんか頼り甲斐あるところとか真っ直ぐな言葉とか、とにかくかっこいいっていうか〟

 さっき俺が鳥羽に言った言葉だ!

「先輩、もしかしてさっきの……」
「ああ、うん。ちょっと聞こえてきちゃった」
「ちょ、ちょっとってどのあたりから……」
「え? 確かタケの話をしてるあたりからだったかな」

 ……それって、ほとんど初めから……!

 てことはもちろん俺が先輩のことを〝かっこいい〟って言ったのも聞こえているわけで。

「矢野くん、俺ってかっこいい?」
「……わっ、忘れてください……!」
「えーやだね。だって矢野くんがそんなこと言ってくれるの珍しいし」

 恥ずかしくなって顔を両手で覆うと、「矢野くん、耳まで真っ赤だよ」と先輩はわざと指摘する。

「言わないでください……っ」

 俺ばかりからかわれて嫌なはずなのに、なぜか嫌いにはなれなくて。
 むしろ、先輩といると楽しくてたまらないのはなぜだろう。

「すぐ顔を真っ赤にする矢野くん、可愛いね」

 先輩のせいで、日誌は思うように進まない。

 放課後、午後十六時二十分。

 俺の教室に先輩がいる。
 俺の世界に先輩がいる。

 先輩にドキドキしてしまう、この感情の正体を俺はまだ知らない──。