「ここ席借りるね」

 鳥羽が座っていた前の席に先輩は腰掛ける。

「戻らなくて大丈夫なんですか?」
「うん、少しくらいなら平気だよ」

 先輩といるとドキドキして落ち着かなくなる。
 俺、ちゃんといつも通りにできてるかなと、少しだけ不安になる。

「矢野くん、クリスマスのことだけどさ」
「またクリスマスの話ですか?」
「そうそう。また」

 と、先輩は笑う。

「矢野くんが俺のこと考えてくれてるって分かってるからあんまり困らせたくないんだけど、やっぱクリスマスは一緒に遊びたいなって思ってさ」

 ──〝好きな子と過ごしたいって思うかなぁ〟

 先輩はそう言った。つまりそれは、〝告白をした俺と過ごしたい〟って意味になるわけで。
 だけど俺はまだ告白の返事をできていない。

 先輩はいつだって優しくて、俺なんかよりも大人で、待たせてしまっているのに怒らないでいてくれる。

「……どうしてですか」
「何が?」
「だって俺、男なのに……どうして先輩は俺のことを……」

 俺のことを好きになってくれたんだろう。

「矢野くんを好きになる前は女子が恋愛対象だったし、まさか自分が男を好きになるなんて思ってなかった」

 そう言いながら微笑んで、「でも」と言葉を続ける。

「矢野くんと生徒会で知り合って話すようになって矢野くんのこと知ってくうちに好きになっていってる自分がいて。好きになることに性別なんて関係ないのかなって思ったんだよね」

 先輩はいつだって真っ直ぐ俺に言葉を伝えてくれる。

「矢野くんが前、顔のことで嫌な思いをしたって話してくれたけど、俺は一度も矢野くんのことを女子だと思ったことはないよ。だって矢野くん、意外と男らしいところあるし」

 かっこよくて、優しくて、頼り甲斐もあって、それでいて俺の全てを肯定してくれて。