「矢野、顔……」
「もー、頼むからちょっと静かにしてて!」

 日誌を掴むと、鳥羽の口に押しつけてそれ以上しゃべらないようにする。

「……痛いんだけど」
「わざとしてるからね」
「ひどいな」
「ひどいのは鳥羽の方!」

 日誌を押しのける鳥羽は、あからさまに俺を見て笑っているから。

「鳥羽のバカ、アホ……!」

 子どもじみたくだらない文句をつぶやきながら俺は、日誌を書き進める。その間も鳥羽だけはクスクスと笑っていた。

「あ、矢野くん」

 しばらくして聞き覚えのある声が聞こえてきて、顔を上げると廊下に夏樹先輩がいた。

「あれ、先輩どうしたんですか?」
「ちょっと先生に用があって。その帰りに寄ってみたんだけど、今日日直だったの?」
「あ、はい。今、日誌書いてて……でも、あともう少しで終わります」
「そっか。じゃあそれまでここで休憩しようかな」

 そう言って先輩は教室の中に入ってくる。

「あ、俺用事思い出した」

 鳥羽が突然そんなことを言うものだから、変な気を回したんだとすぐに思った。

「いつも矢野くんと一緒にいる子だよね」
「あ、はい。はじめまして。俺、矢野の友達の鳥羽です」
「鳥羽くんね。俺は夏樹孝明。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」

 先輩と鳥羽が会話している姿が少しだけ新鮮に見えた。

「じゃあ、矢野。また明日な!」

 かっこつけて手を振って彼は教室を出た。

 まるで、俺気が効くだろ、と言わんばかりの表情だった。
 明日、絶対何か聞かれるんだろうなあ。