「だから、矢野くんを軽蔑するなんて絶対にないから」
──真っ直ぐ向けられた瞳は、キラキラとしていて。
ああ俺、泣きそうだ。
ふと、そう思ってしまったんだ。
「俺、自分の顔がコンプレックスなんです。中学のときは周りによく可愛いって言われてて……」
ゆっくりと俺は口を開いた。
「そのことを姉に打ち明けると、『自分の顔を嫌いになるんじゃなくて武器にすればいい』って言われたんです。それで着なくなった洋服を俺にくれたり化粧もされたり。当然最初は何で女装なんだろうって思ったんです。顔がコンプレックスなのに」
わざわざ女装しても、それはさらにコンプレックスが悪化するだけだと思っていた。
「女装した格好で街を歩いてたらたくさんの視線を向けられていることに気づいて、少し怖くなって俯きかけたとき姉が、『堂々と胸張って前だけ向きなさい。朝陽は朝陽だよ』って言ってくれて……それから少しずつ慣れてきて、一人でも街を歩くようになったんです。段々と自信がついてきたのか俯くことはなくなって、今では堂々とすることができて」
自分の過去を誰かに打ち明けたのはいつ以来だろうと、少し照れくさくなり、
「顔がコンプレックスなのに、女装して自信がつくって変な話なんですけど」
と、俺は笑い飛ばすが、先輩はバカにしたりからかったりそんなことせずに、「そんなことがあったんだね」と先輩は穏やかな声で言った。
「矢野くんが今、話してくれたことってほんとは言いたくないことだったんだよね。それなのに俺に話してくれてありがとう」
女装は誰にも認められないと思っていた。
バカにされると思っていた。