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「最近、寒いなぁ……」

 登校中、空を見上げて息を吐くと白い息がかすかに漏れる。

 そりゃそうか。もうすぐで二学期が終わるわけだし。もう冬だし。でも、寒いのはあまり得意ではない。

「──あっ、矢野くん」

 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

 立ち止まって振り向くと、夏樹先輩がいた。

「……あ、先輩」
「登校中に会うって珍しいよね」
「そうですね。あまり朝は会うことないですもんね」

 帰りは生徒会終わりで一緒に帰ることが多いけど、朝は滅多に会うことはない。

「先輩はいつも何時の電車に乗ってるんですか?」
「んー、生徒会の雑務がない限り今より一本遅い電車かなぁ」
「じゃあ今日はどうして早かったんですか?」
「目が覚めちゃって。二度寝しようと思ったんだけど、この寒さで眠れなくなっちゃって」
「分かります。寒いと目が冴えちゃいますよね」

 先輩の口から白い息があがる。

 鼻先は、ほんのりと赤くなっていた。

「それにしても今日すっごく寒いね」

 首元には、グレーのマフラーを巻いていて、寒そうに首をうずめる。

「矢野くん寒いのは平気?」
「いや、あまり……なので早く春が待ち遠しいです」
「春ってまだ先だね」
「そうなんですよ。だから、休み時間もマフラーが欠かせなくて」

 教室移動とか体育とかだと、ほんっとに最悪で。

「なんか矢野くん休み時間に身体をぎゅっと縮めてそうな姿が頭に浮かんだ」

 と、先輩はクスッと笑う。

「なんでそんな想像してるんですか……」
「きっと寒さに耐える矢野くん、可愛いだろうね」
「なっ、かわっ……!」

 ここが公共の場だということを忘れて先輩がそんなことを言うから俺は気が気じゃなくなる。

「矢野くん、顔赤いよ」

 それを指摘するのは、先輩が意地悪だからで。

「これは、寒さのせいです……っ!」
「じゃあそういうことにしておこうか」

 先輩が隣にいると、落ち着かない。

 こうやって冗談を言ったりするからだ。

「──あっ、そういえば矢野くん、ごめんね」

 いきなり先輩が謝るから、俺はわけも分からず困惑する。

「……何がですか?」
「タケのやつが勝手に言いふらしてるみたいなんだよね。俺と一緒にいた女の子のこと」