「あー、そうだったんだ。だから笑ってたんだね」
俺の顔を見て、先輩は優しく微笑んだ。
──ドキッ。
いやいや、ドキッてなんだ。なんで俺は先輩が笑っただけでときめくんだよ!
先輩が俺を見る瞳が、向けられる笑顔が、あまりにも優しくて。
「矢野くんどうしたの?」
「……あまり見ないでください」
俺は、慌てて目線を下げる。
「なんで?」
「や、だって先輩の……」
言いかけて、ハッとすると口を押さえる。
「……なんでも、ないです」
慌てて口を閉じた。
俺、今なにを言いかけた……?!
──笑顔が愛おしさが伝わってくるので。
「矢野くん今、何か言いかけたよね。俺が、って。俺に何か言おうとしてたでしょ」
「わ、忘れてください!」
「えー、途中でやめると逆に気になるなぁ」
「ほんとにそんな大したことじゃないので……」
先輩の笑顔はとにかく優しい。視線とか仕草とか、全部俺に対して愛おしさが見えるみたいで。
本当に俺のことが好きなんだって思ってしまう。
もし付き合ったら、先輩は俺のことを大事にしてくれるんだろうな──…って、だから、何考えてるの!!
「つーか、山崎! 女紹介してくれるっつー話どうなったの!」
不意をつくように聞こえた声にビクッとして顔を上げる。
「それは武田の日頃の行い次第って言ったでしょ」
「なんっだよ、それー!」
……あれ、まだ会長たちの話続いてたんだ。
「ったく、仕方ねーなぁ」
面倒くさそうにため息をついたあと、「矢野くん、ちょっと待ってて」と夏樹先輩は歩いていく。
「あ、はい……」
先輩に告白をされて一ヶ月が過ぎたが、まだ俺は返事をできずにいる。
先輩と一緒にいるのは楽しい。ドキドキすることもある。だけど、この気持ちが先輩と同じなのか分からない。
どうやって〝好き〟って気づくことができるんだろう。
分からなくて、今日も頭を悩ませた。