「え、でも先輩まだ作業が……」
「もう俺の作業は終わったから」
俺の隣に並んで、「こっちから順に取っていけばいいの?」と尋ねてくるので、すでに手伝うつもりでいるらしい。
夏樹先輩が隣にいるっていうだけで、ドキドキして落ち着かない。
「じ、じゃあお願いします」
「うん」
落ち着かないのに、夏樹先輩の声は心地よい。
「なぁ、山崎はクリスマスどーすんの?」
俺たちが作業をしている一方で、武田先輩はまだそんな話をしていた。
「べつにどうもしないよ」
「まじで? クリスマス一人とか虚しくならねぇ?」
作業をしながらちらちらと武田先輩たちを見ていると、「俺、一人で過ごすって言ったっけ」と会長は突然そんなことを言った。
「──えっ?! 山崎、お前まさか彼女が……」
武田先輩はフルフルと拳を握りしめたあと、「このっ、裏切り者ー!!」と、めいいっぱい溜めた怒りを落とそうとする。
「ちょっとうるさいって。それに俺、彼女とは言ってないんだけど」
「他にクリスマスに誰と過ごすって言うんだよ!」
「家族で過ごす場合もあるでしょ」
「山﨑に限ってそれはねーだろうが!」
あーあ……なに、この状態。誰も止めないから無法地帯が放置されている。
「……先輩、あれ止めなくていいんですか?」
隣で黙々と作業を続けていた夏樹先輩に声をかける。
「ああ、放っておいてもいいよ。山﨑がなんとかするだろうし」
「会長がって……夏樹先輩は止める気はないんですね」
「だって面倒だし。タケに絡まれたくない」
会長に期待しているというよりは、絶対にそっちが本音だと思って思わず苦笑いする。
「そういえば会長って付き合ってる人いたんですか?」
「どうかなあ。俺は聞いたことないけど」
夏樹先輩と作業をしながら、いまだに止まる気配が見えない会長たちのやりとりをたまに見る。
「山崎の裏切り者! 裏切り者にはこーしてやる!」
「ちょっとやめて。作業の邪魔だから」
「友達に邪魔って言うなよ! 切なくなんだろ!」
「武田ってばすぐ虚しくなったり切なくなったり。心弱いの?」
このやりとりをどこかで見たことがあるような……ああっ! そうだ。鳥羽と柳木だ!
会長と武田先輩を見てると、クラスメイトを重ねてしまってなんだか思わず笑ってしまった。
「矢野くんどうしたの?」
「えっ……な、なにがですか」
「いや、今あの二人見て笑ってたから」
「え、あ〜……」
うわ、やばい。俺、顔に出てたかぁ……
「どうしたの?」
作業の手を止めて、緩む顔を隠すように口元に手を添えて、
「いや、ただちょっと会長たちのやりとりが同級生に見えたので、それがおかしくなって笑ってしまいました」
会長が鳥羽みたいで、武田先輩が柳木みたい。