「このことは会長には内緒にしてください……!」

 生徒会たる者が気が緩んで寝ていたなんて知られちゃったら会長に呆れられるかもしれないし。

「うん、大丈夫。言わないよ。つーか、山﨑そんなことで怒らないと思うけど」
「で、でも一応生徒会の人間なので……」
「だからって矢野くん気にし過ぎ」

 ふはっと笑ったあと、俺に真っ直ぐ手を伸ばし、乱暴に頭を撫でるから、髪はボサボサになる。

「ちょ、先輩っ、やめてください……っ!」

 グイグイと先輩の手を押し返すけれど、先輩は楽しそうに笑っているだけでやめようとはしなかった。

「もう〜……」

 そのせいで髪の毛は寝癖のようにボサボサになる。

「ごめんね」

 と、先輩は優しく微笑んだ。

 その笑顔を見るだけで全部許したくなってしまうのはなぜだろう。

「それより矢野くん、今度デートしようよ」

 突拍子もなく、しかもこんな場所で先輩が言うから驚いた。

「えっ、ちょ……なに言ってるんですか……」
「なにってデートのお誘い?」
「いやっ、そういうことじゃなくて……場所を考えてください」

 もし今の会話が誰かに聞かれたりでもしていれば誤解されかねないのに。

「矢野くんさ、女装するときは自信がなくなってきたときだけって言ってたよね」
「言いましたけど……よく覚えてますね」

 逆にそれを聞いてる俺が恥ずかしくなるって、なにこの状況。

「てことは、この前のときも自信がなくなったからってこと?」
「あー、いや、あのときはちょっと色々考えてたら頭パンクしそうだったんで……気分転換っていうか、まあ、そんな感じです」

 あのとき鳥羽が『先輩のこと話してると嬉しそうっていうか、心を許してる感じするし』とか言ったりするから、今まで先輩に言われたことを全部思い出してドキドキしたりして。
 でも、俺の恋愛対象は、女の子であって、男は恋愛対象外だ。

 ……だから先輩にドキドキするのだって、恋としての好きじゃない……はずなのに。

「ふーん。じゃあ、自信がなくなったからってわけじゃないんだ?」
「えーっと、自信は今もないんですけど、前よりは気にならなくなったっていうか」
「へえ、そうなんだ」

 自分で話しながら驚いて、何で前より気にならなくなってきてるんだろうって今度は思うようになって。それっていつからだろう。