『──矢野くんのことが好きだ』

 頭の中で誰かが言った。

 ──ぱちっ

「……あれ俺、寝てた──…」

 そこで俺は、自分が寝ていたことに気づき、むくりと起き上がると、隣の椅子に人影が見えた。

「おはよう、矢野くん」

 あまりにも爽やかにあいさつをされるから、起き抜けに拍子抜けして、

「っ?! せっ、せんぱい……!?」

 ガガガッとパイプ椅子が音を立てる。

 もしかして今までずっとここにいたのかな? いつから!? いつから先輩はここに……

「矢野くん、気持ちよさそうに寝てたね」

 と、クスッと笑われる。

「えっと、先輩はいつからここに……」
「少し前からいたけど、そのときにはすでに矢野くん寝てたよ。それにしても可愛い寝顔だったね」

 先輩がいきなりそんなことを言うから、

「ちょっ、先輩、なに言って……!」

 カアッと顔が熱くなり、分かりやすく動揺する。

「なにって事実だけど」

 頰杖をついて優しい表情を向けられるから、

「せ、先輩すぐそうやって俺のことからかう……」

 そこまで言って、告白されたことを思い出し、思わず口籠る。

 ──〝矢野くんのことが好きだ〟

 そうだ。俺は、確かに告白をされた。それは紛れもない事実だ。

「矢野くん、耳まで真っ赤」
「……言わないでください」

 あーもうっ、ほんとに先輩ってば。自分ばっかり余裕たっぷりでずるい。俺だって先輩のことをドキドキさせたいのに……ん? ドキドキさせたいって何だ?!

「矢野くん、ここ」

 おもむろに声を落とす先輩にどきっと緊張していると、頬に指が当たる。

「跡ついてるよ」

 顔をあげると、先輩と目が合う。

「矢野くんが寝てたのバレバレだね」

 そう言ってクスッと笑った。

 全神経が頬に集中して、俺がドキドキしているのが先輩にも伝わってしまいそうだ。