「緊張してる?」
「してますよ、そりゃあ。あんなふうに大事な話があるなんて言われたら……」
顔がゆでだこになりながら返事をすると、「そっかあ」とクスッと笑われる。
「俺も緊張してる。少しだけ」
と、ポツリと声が聞こえる。
「矢野くん」
先輩の少しだけ掠れた声が流れてきて、恐る恐る顔を上げると、
「俺、矢野くんのことが好きだ」
真っ直ぐ言葉が飛んでくる。
「後輩としてじゃなく、好きな子に想う恋愛としての好き」
恥ずかしがる素振りも見せず、堂々と真っ直ぐに。
「ほんとはさ、まだ言うつもりなかったんだけど、他のやつに触られてるとムカつくし、可愛いって知られるのもすげー嫌だし」
いつもはからかわれることが多かったりするのに、今目の前にいる先輩は真面目で。
「でも、それ以上に矢野くんと一緒にいるとすごい楽しくて、もっと話してたくて。もっと矢野くんのこと知りたくなって、俺のこと知ってほしくて我慢できなかった。知ってほしかったんだ、俺の気持ち」
先輩が冗談を言っているようには見えなくて。
俺は、先輩の言葉にドキドキしてしまった。
「……俺、今こんな格好してるけど男ですよ」
「知ってるよ。でも、男とか女とか関係なくて、俺は矢野くんが好きだから」
「先輩……」
「矢野くんが俺のことただの先輩としか思ってないのは知ってる。ただ、俺の気持ちを聞いてほしかったんだ、矢野くんに」
今までずっと冗談だと思っていた。でも、今までの言葉も本気だったのだろうか?
そう考えたら、今まで笑い飛ばしていたのが申し訳なくなった。
「だから、ちょっとでもいい。結果はどうであれ、俺のこと少しだけ考えてくれると嬉しい」
──真っ直ぐ気持ちを伝えてくれるってこんなに嬉しいんだと、はじめて知った。
「考えます。先輩のこと」
そうしたら、先輩は優しく微笑んで。
「ありがとう、矢野くん」
と、言ったんだ。