そんな俺に、

「俺との約束破ったら罰があるってことも知ってるはずだよね?」

 と、先輩は言葉をたたみかける。

 罰ってたしか……

 〝キスしちゃおうかな?〟

 ──ぶわあっ…

「あああ、あのっ……!」

 ダメだ。言葉にならない。

 絶対先輩、怒ってる。約束破ったからって絶対に。

 先輩の笑顔、ちょっと怖い。

 だったら俺が今できることはひとつしかなくて。

「約束破ってごめんなさい……っ」

 謝り倒すことだった。

「矢野く……」

 先輩がしゃべりだそうとするから、

「決して悪気があったわけじゃなくて、その…ちょっと家で色々考え事してたら、約束をすっかり忘れてしまってて……」

 先輩の言葉を遮って言い訳をする。

 けれど、なんでそこまで言い訳してるのか分からなくなって、

「えーっと、それで」

 最終的に頭の中が絡まって言葉がスムーズに出てこない。

「考え事?」
「は、はい……」

 主に夏樹先輩のことだけど。

「ふーんそっかぁ」

 それは絶対に言えない。内緒だ。

 そもそも鳥羽があんなことを言うから悩むはめになって──…

 〝先輩のこと好きじゃないんだ?〟

 いやっ、だから違うって……!

 ──ぶわあっと顔が熱くなる。

「矢野くん、顔が」

 先輩が手を伸ばしてくるそれに気がついて、

「なっ、なんでもないです…!」

 腕を前に突き出すと、顔を隠す。

 顔が赤くなっていることなんて、自分が一番知っている。

 それを指摘されると、なおさら羞恥心が追いかける。

「ほんとに、なんでも、ないですから」

 ぷしゅーと頭から湯気が出ると、よたよたと力なくよろめいた。

「と、とにかく、すみません……」

 テスト明けだというのに、どうしてこんなに次から次へと事態が急変していくんだろう。

 これもそれも全部、鳥羽の呪いに違いない……!

「ねえ、矢野くん。俺が怒ってると思ってる?」

 だってなんかいつもと雰囲気が違う気がするし。

「え? …あ、はい」

 緊張して答えると、クスッと笑った先輩は、

「怒ってないよ」

 いつも通りの優しい声だった。

 その声を聞いて一気に気が抜けた俺。

「そう…なんですか?」
「うん」

 じゃあさっきのは、なんだろう。

「ただ──」

 口元に手を添えた先輩は、

「予期せぬ事態に驚いてただけ」

 と、俺からわずかに目を逸らす。

 えっ、予期せぬ事態?

 それって──…