「あー………」

 なんで俺、あんなこと言っちゃったんだろう。

 べつにわざわざ言う必要もなかったかもしれないのに。どうして言わなきゃと思ったんだろう。

 我に返ると羞恥心が俺を襲った。

 ──ピコンッ

 ふいに、かばんの中から音が鳴る。

「もーっ、こんな時間に誰……」

 かばんの中をガサゴソとあさって、スマホを取り出してメッセージを確認すると、送信主は夏樹先輩で。

【テストが終わったら、矢野くんに大事な話がある】

 ──そう書いてあった。

 話って何だろう。

【今じゃなくていいんですか?】

 俺がすぐに返信すると、すぐ既読がついて、そしてまたメッセージが送られる。

【今話したらテストに集中できなくなりそうだから、今度でいい】

【分かりました】

 と送ったけれど。

 ……〝大事な話〟って何だ。

 まさか、告は……いやいや。さすがにそれはない。夏樹先輩が俺のことをからかうのは後輩として可愛がられてるだけであってそれ以上でもそれ以下でもないし。

 ──ピコンッとまた通知音が鳴る。

【それとデートも楽しみにしてる】

 ……デートって何のことだ?

 まさか俺がさっき言った〝女装するのは先輩の前だけですので〟ってやつを誤解してる?!

 この書き方だと前回のあれも〝デート〟ってことになるんですけど! いやいやっ、俺はあれをデートだとは思っていない。

 ただ先輩との約束を守っただけであって。見た目はどうであれ男同士で遊びに行ったのなら、それはデートとは言わない。

 それなのに、先輩ってばほんとにいちいち言葉がストレートすぎて。

 誤解を与えるようなことばかりで。

 やっぱり今日も動揺したのは、俺。

「……これ、どうしよう」

 そのメッセージになんて返せばいいのか分からなくて、しばらく放置したのだった──。