「あはははっ!」
男同士でこんなふうにしてると怪しまれるのに、先輩ってば全然そういうの気にしないからこっちがヒヤヒヤする。
「先輩…は嫌いな教科とかないんですか」
前髪をガードしながら一定の距離を保って、会話を戻す。
「んー、嫌いな教科かぁー」
ポケットに手を突っ込みながら空を見上げる先輩。
その姿がなんだかかっこよく見えて。
──なんか、悔しい。
俺ばかり動揺、意識してばかり。たまには先輩の動揺する姿とか見てみたいのに……なにかないのかな。先輩の弱みみたいなのとか。それ知れたらこんなふうに俺ばかりが恥ずかしいとかないのに……
「たくさんあるけど一番嫌いなのは英語かなぁ」
「先輩、英語嫌いなんですか?」
「うーん、だって日本人なのに英語とか必要ないじゃん」
「それ、英語が嫌いな人って必ず言う言葉ですよね」
これ見よがしにピシャリと一刀両断すると、
「こら、矢野くん」
そう言ってこっちに向かって手を伸ばしてくるから、ササッと一歩下がる。
「もうその手には乗りませんよ!」
何度も同じ手は食らわない。
俺だって学習するんだ。自分ばかり動揺するのはもうたくさんだから。
「なに、その手にはって……ぷっ、くくくっ…!」
けれど、なぜか先輩は笑っていて。
「え、あのー……?」
なにが面白かったんだろう? 俺が言った言葉がおかしかった? いやでも、大したこと言ってないし。
「先輩……?」
「いやっ…だってさ……ふふふっ…!」
笑いすぎて言葉が途切れてしまう。
ていうか先輩って笑いのツボが浅すぎる気がする。
「いやー、笑った笑った」
しばらくお腹を抱えたあと、目尻を拭って、
「矢野くんってばおもしろいこと言うよね」
そう言ったあと、「あーおかしかった」と俺を見る。
「え、俺そんなにおかしいこと言いましたか?」
「うん、言った」
えー、全然分からない。
俺と先輩の笑いのツボが違いすぎる。
「あー、おもしろかった。てことで、ちょっと寄り道しない?」
なんていきなり言われるから、
「なっ、なにが、てことでなんですか! 全然意味分からないんですけど……っ!」
先輩って何もかもいきなりすぎて、こっちが慌てふためくことになる。
「ていうかテスト前なので帰って勉強しますので寄り道はしません!」
「えー、矢野くんってば真面目すぎる」
「じゃあ先輩は英語大丈夫なんですか!」
「……なんとかなる」
これ絶対、何ともならない感じの返事だ!