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 楽しかった体育祭が終わり早くも一ヶ月が過ぎた。
 次に待ち受けていた現実は皮肉なもので。

「あー、テストとかやりたくねえ!」

 生徒会室に響いた悲鳴は、もちろん武田先輩の声。

「こら、武田。後輩の前でそんなこと言ってどうするの」
「だってさぁ、せっかく体育祭楽しかったのにテストとか……もう少し楽しい余韻に浸らせてくれよー」

 会長に泣きつく武田先輩。会長は「はいはい」と呆れたように笑って慰めていた。

 いっつもこの光景見てる気がするけれど、なんで武田先輩って生徒会に入ったんだろう。
 それに夏樹先輩の方が見た目は不良っぽいのに、真面目に見えるってなんかおかしい。

 でも、愉快な人で見ていて飽きない。

「あ、そうそう」

 思い出したようにこちらへ顔を向けた会長は、

「今日は、生徒会の仕事ないからみんな早く帰って大丈夫だよ」

 と、みんなに言う。

 今日からテスト前の勉強期間ということで、部活や生徒会活動はない。部活生で赤点を取ったりしたら大変だからだ。なかには、それでも赤点を取る人もいるみたいだけれど。そうなったら再試に合格するまで部活はできないらしい。

「山崎はどーすんの?」
「俺は少し生徒会室の片付けをして帰るよ」
「ふーん、そっか」

 会長は、勉強もスポーツもできるからテストで赤点取るはずなくて。その分、生徒会活動に力を入れている。何事にも手を抜かずに、先輩の鏡とも言えるかな。

 そんな先輩に俺は密かに憧れている。

 俺もいつかそんなふうになれたらいいなぁって。まぁ、顔は会長みたいに全然かっこよくないけど……せめて頼り甲斐のある人になりたい。

「じゃあおつかれさまでしたー」

 俺以外の一年は、そう言って早めに生徒会室を出る。よほど勉強に専念したいみたいだ。

 俺も帰ろう。数学がちょっとだけやばいんだよなぁ……

「じゃあ俺もお先です」

 席を立ち上がり会長たちに頭を下げると、

「うん、またね」
「おー、じゃな」

 と手を振る二人。

 会長は会長らしいけど、副会長は全然らしくない。けれど、そんな返事さえもおかしくなって、クスッと笑いながら生徒会室を出た。

「ねえねえ、矢野くん」

 が、すぐに夏樹先輩に呼び止められる。

「どうしたんですか」

 生徒会室から現れた夏樹先輩は、肩にかばんをかけながら、

「俺も一緒帰っていい?」

 俺の隣にさりげなく並んで歩く。

「えっ……」

 一緒に、帰る……。

 少しだけ肩が跳ねる。