借り物競走中の生徒は、次々とお題の答えを持って行ったり人を連れて行ったりしている。

 刻々と時間は過ぎてゆく。時間は待ってはくれない。

 先輩はいつも俺のことを肯定してくれる。拒絶したりしない。軽蔑だってしない。
 敵とか味方とか、恥ずかしいとか、どきどきするとか。そういうのは今、関係なくて。

 先輩が俺を必要としてくれるなら、俺だって力になりたい……!

「わ、分かりました」

 勇気を振り絞って声を出した。

「よかった」

 すると先輩は、ホッと安堵したような表情を浮かべていた。

 それから先輩と並んで歩き出すと、「うえーい! 頑張れ、矢野!」や「ひゅーひゅー!」などと背後で騒ぎ出すクラスメイトたち。

 あーもうっ、ほんとにうるさい……!

 振り向いて一言文句でも言ってやりたかったけど、今俺の心にそんな余裕はなかった。

 ──どうして呼ばれたのか。

 そのことで頭はいっぱいだったからだ。

「おーっと次のゴールは、二年三組の夏樹孝明選手!」

 アナウンスが盛り上げるように声を張るから、周りからは大歓声。まるでどこかの球場にいるような気分になって、少し居心地は悪い。

「お題を確認させていただきますね」

 ゴールで待ち受けている審査員が、先輩の手から紙を受け取る。

 な、なんて書いてるんだろう……

 武田先輩たちが言ってた、好きな人とか好きなタイプとかなのかな。

 えっ、でも先輩が男である俺のこと好きなんてありえないし……いやでも、この前、駅前で一緒にいた女の子(俺)のことを好きな子って言ってたし。

 も、もしかして──…

「じゃあ、確認させてもらいますね」

 カサカサッと四角く折り畳まれた紙を開く。

 俺は、どきどきが止まらなかった。

 この場で〝好きな子〟だと断定されるのが少しだけ怖かったからだ。

「お題は──…」

 ……ああ、いよいよだ。

 ゴクリ、と固唾を飲む。