けれど、俺は、

「が、頑張ってください!」

 いつも先輩には、助けられてばかりだからと、たまには俺だって先輩の力になりたくて応援した。

「敵同士なのに応援しちゃっていいの?」

 すると、少し先の方で立ち止まった先輩がそんなことを言うから、

「え、あっ、ほんとだ……!」

 武田先輩にあれだけ言ったのに、敵の応援をするなんて俺ってばなにをして。

「でも、ありがとう」
「えっ……?」
「俺、すごい頑張っちゃうから」

 少し離れたところで、先輩が言う。

 その姿は、俺よりも背が高くて頼り甲斐があってとてもかっこよく見えてしまった。

「……顔、あっつ……」

 火照った顔を冷ますように買ったばかりのフルーツジュースを頬に当てた──。

「遅かったね」

 しばらくして鳥羽がいるテントに戻ると、すでに借り物競走は始まっていた。

「……ちょっとトラブルがあって」
「トラブルって?」
「いや、まあ、ちょっと……」

 目を明後日の方へ向けてその場を凌ぐ。

「ふーん。なんかよく分からないけど、おつかれ。あと、これありがとう」

 どうやら嘘は気づかれていないみたいだと、安堵する。
 俺は、カラカラになった喉に水をごくごく飲んで流し込んだ。

「ふう……」

 いつの間にかさっきの動悸は消えていた。

 何だったんだろう? 暑くて体調が悪かったのかな。それとも先輩に……いや、考えるのはよそう。きっと、気のせいだ。

「あっ、あれ、先輩じゃない?」

 鳥羽の声にハッとして前方を見ると、紙を掴んだ先輩がピタリと固まっていた。

「どうしたんだろう」

 ……あっ、そういえば生徒会の雑務のとき。

「な、なんか体育祭実行委員が無理難題を書くって言ってた」
「無理難題?」
「う、うん。好きな人とかタイプとか」
「うわー、それ男子校で書くやつじゃないじゃん」

 共学校ならあり得るけれど、男子校で好きな人とか暴露しちゃう人なんて絶対いないのに。体育祭実行委員は盛り上げようとそんな紙を用意するのかも。

「じゃー、それが当たったとか?」
「ど、どうなんだろう」

 もしかして、ほんとに一番答えにくい回答を引いちゃったとか?

「あー、なんかキョロキョロし始めた」

 鳥羽が先輩の実況を始めるから、意識を目の前へ戻して。

「……ほんとだ。何を探してるんだろう?」
「矢野じゃないの」

 いきなり鳥羽がこっちを向くから、ギョッとして、

「な、なんで」
「仲良いから?」
「だったら生徒会みんなが候補に入るでしょ」
「あー、それもそっか」

 なんとか危機を凌いだ俺は、安堵の息を吐く。