「好きな子だから」
夏樹先輩が言葉を紡いだ瞬間、俺は一瞬耳を疑った。
「いやいや、夏樹に好きなやつ? 嘘つけ。友達とかじゃねえの」
俺と同じように疑う武田先輩。
何て答えるのか気になっていると、先輩はこう言った。
「今はまだ友達だけど、俺にとっては好きな子だよ」
その言葉を聞いて、俺は弾かれたように顔を上げた。
瞬間、真っ直ぐに向けられた視線とぶつかり、ドキッとする。
「まあ、いつか付き合えたらって思ってる」
本当か嘘か分からない。
この空気を和ますために先輩が冗談を言っているだけかもしれない。
それなのになぜ、こんなにドキドキしてしまうんだろう。
「俺にも会わせろよ!」
「なんで。やだよ」
「じゃー、あんな可愛い子とどーやって知り合ったのかだけでも教えてくれよ!」
「うーん、それも無理」
「なんでだよ!」
「なーんでも」
夏樹先輩が頑なに口を閉ざしていると、「せっかく女子と出会える方法聞けると思ったのに」と、武田先輩はぐでーんと机に項垂れる。
「出会い方なら近くに共学校があるでしょ」
と、会長が言う。
「そーだけど、どうやって知り合うんだよ! 知り合いなんかいないしなぁ」
「俺、そこに知り合いいるよ」
「えっ……まじで?!」
「うん、ほんとに」
「じゃあ今すぐにでも紹介してくれ!」
武田先輩ひ食い入るように会長席に詰め寄ると、「どうしようかなぁ」と会長は笑う。
「頼むよ、山崎!」
「じゃあ残ってる雑務、まじめにこなしたら考えてあげてもいいよ」
会長はニコリと微笑んでいた。
そんなやりとりをしているのが全然気にならないくらい、俺はドキドキが鳴り止まなかった。